第16章 父ちゃん
「んっ? なんだこりゃ?? 三途(さんず)の川も,花畑もねえじゃねえか」
麻酔が覚めて,集中治療室のベッドに移されたお父さんが,不思議そうに 目をキョロキョロさせています。
「ばかだねえ。 ここは、病院だよ」と、にっこりするお母さん。
「あれ、か、母ちゃん❗️ (子供たちにも気づいて)おめえたちもいるって事は、俺 助かったんか?」
「当たり前じゃないか。 やだよ、この人ったら」
目をパチクリしているお父さんの右手を、優しく握っているお母さん。 トンボのような 大きなメガネの中が,みるみる涙でいっぱいになりました。
「おいおい、泣くんじゃねえよ。 それじゃ、俺が 死んぢまったみてえじゃんかよ」
「ち、違うよ。 ゴミが入って,ゴロゴロしてるんだよ」
お父さんの手術が終わるまで,明るく子供たちを励ましていたけど,ほんとは お母さんが誰よりも心細かったのです。
「父ちゃん,どこか痛い?」
「ちっと足がいてえけんど、なあに大した事ねえよ」
一番上の姉ちゃんに,笑ってみせるお父さん。 でも、骨折した所をつなぎ合わせているのだから,痛みがあるに違いありません。
「石井さん,よく頑張りましたね。 山は 越えたので,もう大丈夫ですからね」 ケガを手術した先生が お父さんのベッドの傍に来て,優しく声をかけました。
帰りのタクシーの中。
「母ちゃん,父ちゃん助かってよかったね」
「母ちゃんが 言った通りだろ? 父ちゃんは,運が強いって」
後ろの運転手側にいる 一番目の姉ちゃんが、助手席のお母さんと 嬉しそうに話しています。
「ねえ、紀(のり) どうした? どっか 悪いんじゃねえ?」
助手席の後ろで,車に乗ってからずっと 黙って下を向いたままの弟に,隣にいる二番目の姉ちゃんが話しかけました。
「え? 紀(のり)、顔色でも悪いのかい?」
「たしかに、さっきから元気ないね」
お母さんと 上の姉ちゃんが,紀矢(のりや)に視線を注ぎました。
「へっ? ああ、うん、だいじょぶ、だいじょぶ。 へへ、へへへ」
顔を上げて,お母さんたちに 笑顔で答えてはみせたけど、紀矢の胸には 霧が立ち込めていました。
「あの すみません、平田さんのご家族の方でしょうか?」
病院のロビーで,手術が終わるのを待っている時,大急ぎでやってきた あの看護師さんの言葉が,何度も 何度も聞こえてくるのです。
大ケガを負った父ちゃんが 命を取り留めて,何よりも嬉しいはずなのに。
〜つづく〜
「ファンキー・ビケット」 次回のお話は?
どうも、紀矢です。 今日のお話も,最後まで読んでくれて ありがとよ。
父ちゃんの所から戻った後も ずっと胸騒ぎがしてて,一刻も早く 徹の無事を確かめたかったから、次の日おいらは、いつもより早く登校しました。
通学路の途中にある 心臓破りの坂を駆け上がって,なんとか1bの教室に着いたけど,朝のホームルームの時間が迫ってきても,おいらの相方が現れねえ。
あいつ、今まで遅刻なんかした事なかったのによー。
おうい、とおるちゃまー、早く来てくれー❗️
第17章 いとしの相方は?
で、また会おうぜ‼️
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