第11章 ひろみちゃん 起きて❗


「そうだ、忘れていた」

そう言って、ふと立ち上がったアンタレス。 少し離れた所に有った 小さな光る物を拾って 戻ってきました。 そうです。 あの光る大蛇に巻き付かれた時に なんとか抜け出そうと暴れているうち落としてしまった、自分のファンキー・ブーメランです。

「すまない。 みんな ちょっと離れてくれ」

アンタレスは、徹(とおる)たちにそうお願いすると、ブーメランを 意識の無いひろみの顔にかざし、「タービケ ムーピス」と 呪文のような言葉を唱えました。

 ピカ、シュルルー・・・!

ビケットたちが注目する中、ブーメランから吹き出した青白い光が うねうねと広がって、ひろみの体を包みました。 (このファンキー・ブーメランのパワーで、ひろみの意識が戻るんだ) 徹たちは、そう確信して 待っていました。 五つ数えたほどして、スーッと光のシャワーが引いて、犬の顔のプリントがついた 白いTシャツと 深緑のキュロットをまとった、変身前のひろみの姿が現れました。


「ひろみちゃん、ねえ ひろみちゃん聞こえる?」

徹・紀矢(のりや)・彩野(あやの)の三人が 周りを囲むようにしゃがみ込んで呼んでみたけど、ひろみの目は いっこうに開きません。

「ちょっと ちょっと、ブーメランの魔法で 治してくれたんじゃねえのかよ」 今度は 徹ではなく、紀矢が アンタレスに詰め寄りました。

「待ってくれたまえ。 レスキュー隊が来た時 ビケットのままだったら、身元がわからなくて困るじゃないか」 アンタレスときたら、本気でひろみを救おうと 思っているのでしょうか?

「私 やってみる」 彩野が意を決して、自分のブーメランを 戦闘服のポッケから取り出しました。

「私たちのブーメランも、アンタレスさんのと同じはずでしょ」

「もちろん一緒だ。 でもダメなのだ」と、冷たく答える アンタレス。

「え、なんで? どうしてダメなんですか!?」

彩野が 不服そうな目で、アンタレスに食い下がりました。

「なんでって・・・私に言われても、こればかりは どうにもならないんだ。 ファンキー・ブーメランのパワーでは、けがや 病は治せないんだ」

「えっ、そんな・・・」

「ちぇっ、なんだよ」

がっくりうなだれる彩野と、ため息をつく紀矢。

「ひろみちゃん、ごめん。 僕を待っててくれたのに、助けてあげられなくて ごめんよ。 もう一度笑って、『ねえ 徹』って呼んでほしかった」 ひろみの手を ぎゅっと握りしめたまま、肩を振るわせて 泣き伏す徹。

 紀矢も、彩野も、こんなに取り乱した徹を見るのは初めて。 なんとかして落ち着かせたいけど,かける言葉がみつかりません。 


本当は、徹だって 頭の隅ではわかっていました。 後は、救急隊が駆けつけてくれるのを 待つしか無いってこと。 でも 今は、(ひろみちゃんは、たぶんこのまま助からない。 どうして危険な目にあった時、守ってあげられなかったんだろう? ひろみちゃんが あの世に行ったら、僕たちは 永遠に離ればなれになってしまう。 イヤだ! 絶対にイヤだ! そんなの絶対イヤだ!!) もう悪い事しか 浮かんでこないのです。 大事な人を助けられない悔しさと、仲間たちをおそったバタンキュラーへの怒りと、頼りにならない大人・アンタレスへのいらだちと、全部グチャグチャになって、ぶつけどころの無い思いが 涙になって、押さえる事ができません。

徹の緑色の瞳からあふれ出たあつい涙が、後から後から ひろみの顔に降りかかりました。


ピクッ。

(え・・・) 今,わずかに反応があったような? 思わず顔を上げて、じっとひろみを見る徹。 見たところ、何も変わった様子はなさそうです。 ああ・・・気のせいか。

いいえ、気のせいなんかではありません。次の瞬間,光る大蛇に飲まれてから ずーっと閉じたままだったひろみの目が ゆっくりと開いたのです。 そして、ぱちぱちと瞬きをすると、すぐ側でこちらをのぞき込んでいる 徹の顔を、じーっと見つめました。

「えっ、徹? ・・・徹なの??」

ひろみの声は 弱々しいけど、徹にも、ほかのビケットたちにも、はっきりと聞こえました。

「うん」と うなずく徹。

「助けに来てくれたんだ。 ありがと」

今度は、ただ黙ってうなずいた徹。

蛇に襲われた時、助けられなくてごめん。

メールで助けを呼んだ時、すぐ戻ってこなくてごめん。

けがは、大丈夫なの?

痛い所は、ない?

ひろみに謝りたい事、かけてあげたい言葉、山ほど有るはずなのに、涙で詰まって 言葉になりません。

「え? あんた泣いてんの!? ツカ! 彩野ちゃんが泣いてたら あんなに怒るくせに、なんだよ。 へへへ」

道ばたのアスファルトに横たわったまま、いたずらっ子みたいに笑っている ひろみ。

「よかったあ、ひろみちゃん 目を開けてくれて! ねえ、おしり打ったとこ、まだ痛む?」

彩野が 子供のように飛びついて、ひろみに ぎゅーっとハグをしました。

「彩ちゃん ギブ、ギブ! ケツよか 彩ちゃんの『ムギュー!』の方が、メッチャ痛い」

「やだ、ごめんなさい」 慌てて、離れる彩野。


「あっ、来た来た。 すいませーん、こっちです、❗❗」

ようやく聞こえてきた 救急車のサイレン。 紀矢が 音がする方に向かって 大きくペンライトを振っています。

「けが人は、こちらの方ですか? 大丈夫ですか? 痛い所は 有りますか?」 駆けつけた 救急隊の人たちが、ひろみに尋ねながら、顔色を見たり、脈や 熱を測ったりしています。

「あの・・・ひろみちゃんは 大丈夫ですよね? ほんとに、ほんとに大丈夫ですよね⁉」

徹が、救急隊の一人に 夢中で尋ねています。 え? ついさっき あんたの涙で意識が戻って、会話もしていたでしょ?!

「ねえ、徹 落ち着いて。 あたいは 大丈夫だから。 尻餅ついたとこが、ちょっと痛いだけだからさ。 へへへっ」 ゆっくりと体を起こして、笑ってみせる ひろみ。

「でも、5分くらい前まで 意識無かったし。 すみませんけど、ちゃんと検査してください。 ちゃんと治して。 お願いします❗」

「大丈夫、大丈夫。 顔色もいいし、しっかり受け答えもできてるから。 大蛇に襲われたって聞いてるから いちおう 頭とかにけががないか 病院で見てもらうけど、すぐ帰れると思いますよ」

ひろみの脈をさっき調べていた 女性の救急隊員が、優しく徹の背中をたたきながら、声をかけてくれました。

「すみませんが、あなたが 救急に連絡をくれた ご家族の方ですか?」 ひろみのけがの様子を記録していた 細長い顔の隊員が、アンタレスに尋ねました。

「はい」

「それでは、一緒に 救急車にお乗りください」

アンタレスも ひろみに付き添って、救急病院に 向かう事になりました。

「すみません。 僕も行きます」 ゆっくり救急車の方へ歩き出した ひろみたちに、徹が駆け寄りました。

「ごめんなさい。 車の中は 狭いから、同行の人は 一人しか乗せてあげられないの」

女性隊員の言葉に、うなだれる徹。

「大丈夫ですよ。 歩き方も 異常なさそうだし、けがの治療が終われば 帰ってこられますからね」 車に乗り込む前に、さっきの 顔の細長い男性隊員が、徹の肩を そっとたたいてくれました。

「獅子座町(ししざまち)の 救急医療センターが 受け入れOKなので、早速向かいます」 運転席で 無線連絡をとっていた 団子っ鼻の男性隊員が、車を発進させました。

ピーポー ピーポー・・・。

大きなサイレンを 真夜中のバス通りに響かせて、救急車は 駅と反対の隣町の方へ 遠ざかっていきました。

〰つづく〰


 「ファンキー・ビケット」 次回のお話は? 

 みんなの応援のおかげで 復活した,ひろみです❗️ 心配かけてごめんね。

 

 さて次からは,うちらの天秤高校・秤高(びんこう)の 2学期がスタートします。 

 1年b組には,アイドルみたいなハーフの男の子が仲間入りします。 もしかして もしかすると、彼もビスケット(?)にスカウトされちゃったりして⁉️


 第12章 イケメン君と お困り先生 

 ぜーったい 読んでチョ❗️❗️

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