第12章 イケメン君と お困り先生
隣町の救急医療センターで 検査を受けた、ひろみ。 幸いケガは、軽い脳震盪(のうしんとう)と おしりの打撲だけですんでいました。
明くる日、徹(とおる)と 紀矢(のりや)と 彩野(あやの)のスマホに、ラインが届きました。
「ひろみだよ。 今、退院したよ。
ケガも、たいした事なかったから 大丈夫。
みんな、心配かけてごめん」
仲間たちは、ようやく胸をなで下ろしました。
それからというもの、ファンキー・ビケットからのお仕置きが よほどこたえたのか、バタンキュラーどもの悪行は、なりを潜めていました。 ちょっと前までは、テレビのニュースも、ワイドショーも、ヨーロッパやアジアに散らばったメンバーたちが起こした事件や 騒動を、毎日のように伝えていました。 でも 8月の終わり頃には、いつの間にか あの連中の話を 聞かなくなっていました。
どうも世間の人々は、まだこの日本にも バタンキュラーの一派が忍び込んできたのに 気づいていないようです。 徹たちのお母さん はじめ 周りの大人たちは、なぜだか笑うだけで、信じてくれません。
それどころか、紀矢たちが ビケットになる事に、家族たちは猛反対。
紀矢の両親と 姉ちゃんたちは、最初戦隊ヒーローと聞いて テレビに出られるんだと勘違いし、「ヤッタ、紀(のり) すげえじゃん! お祝いに、焼き肉食べに行こうぜ!!」と 大喜び。 ところが、戦う相手が特撮物の化け物じゃなく、あのバタンキュラーなんだと わかった途端、「やめろ、やめろ」の大嵐。 「どうしても戦争ごっこがやりたいんだったら、もうおまえは うちの子じゃないよ」と 言われてしまい、それから家族の前で ビケットの件について話す事は、厳禁になってしまったのです。
ひろみと 彩野の家の家族会議の様子は、もうお話しするまでもありませんよね。
え? 徹のうちは、どうだったかって?
実は、あの子は ファンキー・ビケットになる気なんか さらさらなかったので、家に帰ってからも 紀矢たちと花火をした後の話は、ほとんどしなかったのです。 あの子が報告したのは、「アンバランから逃げ出した バタンキュラーが、日本にも来てるよ。 うちら、今夜 絡まれそうになったから、母さんも気をつけてね」 それだけ。 だから お母さんは、徹がファンキー・ブーメランを拾った事も、怪しいアンバラン人・アンタレスと出会った事も、ヒョウに変身して 大蛇と戦った事も、ひろみがケガを負った事も知りません。
そんなこんなで あっという間に夏休みは過ぎていき、いよいよ2学期が始まりました。
徹たちがいる1年b組には、スピカ‐ウィルゴー君というハーフの少年が 仲間入りしました。 夏休み中に、内乱がおきているアンバランから避難してきた、緑のウエーブヘアーと 同じ色の大きな瞳がすてきな イケメン君です。 お母さんが日本人なので、日本語もベラベラ。 恥ずかしがらず 誰にでもにこにこ話しかけるので、すぐに1bのみんなと仲良しになりました。
イケメン転校生・スピカ君の噂は、小さな町の高校中に あっという間に広がって、両隣の1aや 1cの生徒たちだけではなく、上級生や 先生たち、時にはお掃除のおばちゃんまで会いにくるほどの 人気ぶりです。
そのフィーバーぶりを、一人、くらぁい表情で見つめている先生がおりました。 今学期から産休に入った 英語の先生のピンチヒッターで、徹たちの学校にやってきた 加藤信之(かとう のぶゆき)先生です。
栗色のウェーブヘアーで、スピカ君と同じ緑色の目をした この男性も、実はアンバラン人。 本名は、アンタレス-キュラー-ウィルゴー。
・・・ん? どこかで耳にしたような名前ですね??
そうです。 夏休みのあの晩、徹たちにファンキー・ブーメランを授け、一緒にバタンキュラーをやっつけてほしいと 頼んだ アンタレスです。
弟のヤンキー王子が バタンキュラーの一派を引き連れて、日本の小さな町・乙女座市に 難民として住み着いたのを知って、居ても立ってもいられなくなったアンタレス。 (あいつは 世界中にバタンキュラーのチームを作って、祖国・アンバランのクーデターに協力させようとしている。 なんとしても 笑顔と友情の妖精・ビケットのお力を拝借して、罪のない民が悪に染まらぬように 守らなければ) そう心を定めて、弟たちの後を追って来日。 ちょうど新しい英語教師を探している高校があるというので、アンバランのセジャ(皇太子)の身分を隠して 赴任してきたのです。
「石井紀矢君(いしい のりやくん)、太田彩野さん(おおた あやのさん)、千葉(ちば)ひろみさん、平田徹君(ひらた とおるくん)、先週末の単語テストの解答の件で、ちょっと訊きたい事があるので、放課後 理科準備室に来てください」
ある日の英語の時間の最後、クラスのみんなの前で、加藤先生が 突然こう告げました。
「えっ、なになに?」「まさか、カンニング⁉️」「四人で? うっそー‼️」
1bは、大騒ぎになってしまいました。
ん? 加藤先生は 英語科の教員だから、理準じゃなくて 英準にいるんじゃないの??
まあまあ、落ち着いてください。 実は この学校、なぜなのか職員室が狭くて、全員の先生のロッカーや 机が収まらないのです。 そこで 普段は、家庭科準備室に 家庭科と 国語の先生がいたり、理科準備室に 理科と 英語の先生がいたり、何人かの先生が共同で 部屋を使っているんです。 これは、代々の生徒に語り継がれている「市立天秤高校 不思議コレクション」の一つなのだそうです。
さて、帰りのホームルームが終わると、徹・紀矢・ひろみ・彩野の四人は、早速 理準に向かいました。
「急に呼び出して、すまない。 実は、『チーム ファンキー・ビケット』の活動の件で 重要な話が有って・・・」
「ちょっと待ってください!」 まだ途中だというのに、徹が身を乗り出して、加藤先生の話を遮りました。 「なんで先生は、ファンキー・ビケットの存在を 知ってるんですか? テレビや ネットでも、伝えられていませんよね??」
「待ってくれたまえ。 そう噛みつきそうな目で見るな。 隠してて申し訳なかったが、私は 君たちにファンキー・ブーメランを授けた アンタレスだ」
「えーっ、な、何だってー⁉」
あまりにも 突拍子のない言葉に、思わず 徹たち四人の声が ハモりました。
「あ、ちょっとタンマ! 確かアンタレスさん、髪の毛 茶色じゃなかったよな?」
紀矢が、長机を挟んで目の前に座っている 加藤先生こと アンタレスを、じろじろ見ながら つぶやきました。 ほかの三人も、うんうんとうなずきました。
「髪は、身元がばれぬよう カラーリングしたのだ。 そうだ、私が怪しい者ではない証拠に、あの日の ひろみ君が身につけていた服を 当ててみよう。 上は 白いTシャツで、確か 耳がたれた犬の顔の絵が着いていた。 下は、グリーンのキュロットだったな」
「すげえ! あたいより よく覚えてる。 間違いなく 一緒に救急車に乗った アンタレスさんだ」 思わず 口をあんぐり開けている、ひろみ。
「これで、本人だとわかってもらえたかな? ・・・では、早速本題に入ろう。 君たちのクラスにいる ウィルゴー君に、何か気になるというか 怪しい様子はないかい? たとえば、何もしてないのに いきなり暴力を振るわれたとか・・・」
「ねえ アンタレスさんは、うちら1bのクラスに 恨みでも有るんですか? 僕たちが テストで ずるしたみたいに言って 呼び出したり、みんなと仲良くやってる転校生を 悪者にしようとしたり。 それでも先生のつもり? うちらは、何も悪い事なんかしてないから」
「おい、徹 落ち着け! なに ため口になってんだよ。 相手は、先生だぞ」
「わかってる。 だけど こういう事されて、みんな平気なのかよ?」
一気に導火線に火がついた 徹。 こうなると、親友の紀矢の制止も効きません。
「すまない。 君たちの事が憎いわけではない。 1bには、テストで不正をはたらいた生徒などいない。 しかし、徹君たちが ビケットだと 周りに気づかれないよう 集まってもらうには、ああいうふうに 理由を付けるしかなかったのだ」
「事情は わかったけど、僕は ビケットじゃないんで。 ビケットの関係の話なら、僕は 席を外すね」
椅子から立ち上がって、部屋の出口に向かおうとする徹。
「待ってくれないか。 私は、君のような 芯の強い、賢い若者にいてほしいのだ」
慌てて 後を追おうとする、アンタレス。
徹は、こちらに向き直って、
「僕より強くて、頭のいい人なんか いくらでもいるよ」
それから ふと思い出して、制服のズボンのポッケに右手を突っ込んで、
「これ、ありがと。 もういらないから」
アンタレスに 何かを放り投げてよこすと、さっさと 理科準備室から出ていってしまいました。
「ファンキー・ブーメランを返したという事は、彼は 本当にビケットにはなる気がないんだな」 徹から返却されたブーメランを見つめて、がっかり肩を落とす アンタレス。
「だけどさ、いくら自分たちに疑いがかけられて 腹が立ってたって、先生に物を投げちゃダメだよ。 ・・・すみません、先生。 後で、あいつとよく話し合います」 申し訳なさそうに、ひろみが頭を下げています。 「いや、だから君は 詫びなくてもよいのだぞ。 私のみんなへの配慮がかけていた。 徹君は、けして間違った事は 言っていない。 仕方ない。 君たち三人に伝えておこう」
アンタレスは、ブーメランを自分のロッカーの中のカバンにしまうと、再び紀矢たちと向かい合って座りました。 それから 一つ深呼吸をすると、みんなを真っ直ぐに見ながら 静かに切り出しました。
〰️つづく〰️
「ファンキー・ビケット」 次回のお話は?
英語科の加藤先生 こと アンタレスです。 今回も読んでくれて,ありがとう。
徹君たちのクラスの転校生は,実は私の弟のヤンキー王子なのだ。・・・おっと、いけない❗️ うっかり 口が滑ってしまった‼️ これ以上は,余計な話は 控えるとしよう。
それはさておき,徹君たち1年生の男子が,有志でカラオケサークルを催すらしいぞ。
ああ、私も もう少し若かったらな・・・。
第13章 野郎どものカラオケサークル
楽しみにしてくれたまえ。
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