第10章 ヤダ❗ イヤだ❗

しばらくの間 ぼーっと一点をみつめて、電柱にもたれて休んでいたヒョウ。 突然 はっ!として、正面に向き直りました。

(そうだ、こんな事 してられない! もし誰かに見られたら おまわりさんに通報されて、檻に入れられる。 運が悪ければ 猟師が呼ばれて、僕は・・・)

そして、ちょっとよろめきながら ゆっくり立ち上がると、近くのジュースの自販機の方へ 歩いていきました。 自販機と、後ろの駐車場の金網との隙間に 右前足をつっこんで、ガリガリやっています。 爪でも 研いでいるのでしょうか?

まもなく 何かが 長い爪にひっかかりました。 そのまま ずるずる 引っ張り出すと、ぼんやりと光る小さな物が 出てきました。 ヒョウは、今度は 両方の前足をそれに優しくのせて、犬の「伏せ」のポーズをとりました。


次の瞬間でした。

シュルルル シュルルー!

ヒョウの前足の辺りから、無数の青白い光の粒が吹き出して、うねうねと広がっていきました。 光のシャワーが、津波のように ヒョウの体を飲み込みました。

五つ数えたくらい間を置いて すーっと光のシャワーが引いた時、今までヒョウがいた所に、白いヘルメットに 青いコスチュームのビケットの姿が現れました。

そう。 家に帰る途中で、仲間たちが苦しがっている幻を見て引き返してきた 徹(とおる)です。

実はここへ戻ってくるなり、徹がアンタレスの知り合いだと気づいたスピカに、

「てめえも あいつら同様、こいつの餌にしてやるぜ!」

と 大蛇をけしかけられたのです。 (やばい! 僕まで食べられたら、みんなの敵がとれない) そう思った徹は、自販機の陰で ファンキー・ブーメランに念じて ヒョウになり、蛇と戦っていたのです。


「さあ、ひろみちゃんたちを 助けないと。 ・・・あ! しまった、どうしよう?」 伏せていた体を起こして、バス通りばたにつもった 無数のあぶくの山を見たとたん、思わず叫び声をあげた 徹。 蛇をやっつけた という事は、そいつのおなかの中にいたはずの仲間たちも 一緒にやられてしまった という事。

「そうだよ。 本当なら まずみんなを助け出して、それから大蛇をやっつければ よかったんだ。 なのに・・・。 ひろみちゃん、紀矢君(のりやくん)、彩(あや)ちゃん、みんな本当に申し訳ない」

徹は、ひたすら謝る事しかできませんでした。

こんなかたちで 突然いなくなってしまうんだったら、彩ちゃんに あんな言い方して、泣かすんじゃなかった。

紀矢君に 勉強を訊かれた時、もっと丁寧に教えてあげればよかった。

ひろみちゃんを もっとちゃんと守ってあげたかった。

もしあの時 さっさと帰らなければ、みんなで あいつをやっつけて、こんな事には ならなかったんじゃ・・・。

あれこれ悔いる気持ちが 涙になって、緑色の瞳からあふれました。

徹の足下、車道と 駐車場の金網の間に溜まった あぶくの山が、風もないのに プチプチいいながら動いているように見えました。

(みんな、この泡になっちゃった・・・)

そう心でつぶやいたら 余計につらくなりました。

「きっと夢だよ。 あんな光る蛇 いるわけないし。 さあ、うちに帰らないと」

わざと少し明るく言い聞かせて、ゆっくり歩き出そうとしてみたけど、今の徹には 涙を止める特効薬がありません。

(ひろみちゃん、紀矢君、彩ちゃん、助けてあげられなくて ごめんよ。 僕のせいで こんな事になって、ほんと ごめんね。 明日、みんなの所にまた来るよ。 毎日 会いに来るから)

徹は、あぶくの山に手を合わせて、仲間たちに 心で話しかけました。


すると、それまで かすかに揺れ動いているように見えていただけの泡の山が、ぶくぶく 激しい音を立てながら むくむくと盛り上がって、バン!と はじけました。 その勢いで、徹は尻餅をつきました。 泡が破裂した後には、西瓜や とうもろこし、ねずみや なぜか紙に包んだままのキャンディーなど、例の大蛇が飲み込んだと思われる餌たちが散らばっていました。 そして その中に、アンタレスと 紀矢たちの、四人のビケットの姿もありました。 初め 四人は 気を失っていましたが、まもなくアンタレス・紀矢・彩野(あやの)の三人が 目を覚まし、起き上がりました。

「ああ、よかった! みんな 生きててよかった」 徹が、仲間たちに駆け寄りました。

「徹、やっぱ 助けに来てくれたんだな。 ありがとよ!」

「ありがとう。 私たち、もうダメかと思ってた」

徹・紀矢・彩野の 三人のビケットたちは、ハイタッチで 再会を喜び合いました。


でも、

「ねえ、ひろみちゃんが まだ目を開けてないけど・・・?」

一人だけ意識がないのが 気になって、徹は 倒れているひろみに歩み寄って、顔をのぞきこみました。

「弱いけど、息はあるみたいだな」

「そうなんだよ。 蛇に食われた後から、ずっと ぐったりしてるんだ。 うわごとで『徹、助けて』って おまえの名前を呼んだっきり、おいらたちが声をかけても 応答無しなんだよ」

紀矢が、これまでのひろみの様子を 説明してくれました。

「えっ、なんだって!? ねえ、ほんとにずっと 意識がないままだったの?」

驚く 徹。 うなずく みんな。

「脈を触ったら、ちゃんと動いてる。 今 私の携帯で 救急車を呼んだから、大丈夫だ」

ひろみの左手首の脈にふれながら、アンタレスが みんなに言いました。

すると 徹が、

「『大丈夫だ』って、どこが大丈夫なのさ! お兄さん、あなたも みんなが蛇に食べられた時 一緒だったんでしょ? 大人がいたのに、なんで助けられなかったのさ?」

アンタレスに、また タメ口で詰め寄りました。

「すまない。 いや、違うのだ。 蛇に飲まれた時、うっかりブーメランを 蛇の体の外に置いてきてしまって、ブーメランのパワーを・・・」 アンタレスは、必至に いいわけを繰り返すばかり。 小さな国の王族とはいっても いちおうセジャ様なのですから、もう少し しっかりしてほしいですね。

「ひろみちゃん、僕の声 聞こえるかい? 徹だよ。 もうじき救急車が来るそうだから、頑張りな」

徹は、ひろみの右手を しっかりと握り、声をかけつづけました。

他の仲間たちも ひろみの周りにしゃがんで、必至に声をかけています。

「まだサイレンの音、聞こえてこないな。 日本の国のレスキューチームは、どうなっている?」

なかなか来ない救急車。 アンタレスが 愚痴った一言が、

「お兄さんも、暇なら ひろみちゃんに話しかけてよ。 ブーメランに頼らなくたって、それくらいは できるでしょ!?」

徹を余計 怒らせてしまいました。 この二人、どうも合わないみたいです。

そんな間も、ひろみは じっと目を閉じたまま。 うわごとで名前を呼ぶほど ずーっと徹が来るのを 待っていたのに。

「ひろみちゃん、わかるかい? ねえ、僕の事 呼んでいたんでしょ? ヤダ。 イヤだ! このまま ひろみちゃんが死んぢゃうなんて、イヤだ!! 死なないで! 頼むから頑張って! 死ぬな!!」

ここで 突然声をかけるのをやめてしまった徹。 涙で つまってしまったのです。 もしかして もしかしたら、もうひろみは 助からないかもしれない。 そんな胸騒ぎと、ちょっといいかげんなアンタレスへの怒りとで、徹は 壊れてしまいそうでした。

〰つづく〰


 「ファンキー・ビケット」 次回のお話は? 

 こんにちは。 彩野です。 


 蛇の体の中から 外に出られて 喜びあった私たち。 でも ひろみちゃんの意識が,なかなか回復しません。 

 アンタレスさんから「ブーメランの魔法では,治せない」と聞いて,ショックで徹君が取り乱しちゃって・・・。 


 第11章 ひろみちゃん 起きて❗️

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