第2章 仲間はどこに?

 不気味な青白い光のシャワーを浴びている間に、他の三人とはぐれてしまった徹(とおる)。 あちこちみんなを探しているうちに、とうとう 9時52分 の最終バスの時刻も過ぎてしまいました。

(そうか、もうすぐ 10時 になるんだ。 母さん きっと心配してるな。 まだ紀矢(のりや)君たち みつからないけど、 今夜 は とりあえず帰ろう)


 そう思い直して立ち上がった時、ちゃんとデニムのポッケに入れてあったはずのスマホが、ポトリと地面に落ちました。

「うわっ、やばい!」

徹は、慌ててスマホを拾いました。

「あっ、そうだ! なんで、すぐこれを思いつかなかったんだろう」

そう。 紀矢と、ひろみと、彩野(あやの)の携帯に順番に電話すれば、あんなに歩き回らなくてすんだのです。


 急いで 紀矢の電話にかけてみると、

「徹! 徹か!? よかったー!!」

てると同時に、紀矢の嬉しそうな明るい声が返ってきました。

仲間が心配で、心配で、ずっと引きつっていた徹の顔が、緩みました。

「紀矢君も無事だったんだね。 それでさ、今どこにいるの?」

「どこって・・・それが なんかみんなと はぐれちまってよ。 ずーっと河原を歩いてたら、知らねえうちに 蟹座橋(かにざばし)の方まで行っちまって、戻ってきてるとこなんだよ」

「蟹座橋!?」 驚く徹。

「蟹座橋」は、徹たちが住んでいる乙女座市(おとめざし)の隣の獅子座町(ししざまち)に有って、みんなで花火をしていた所から 4キロ近くも離れているのです。

「ずいぶん遠くまで行っちゃってたんだねえ。 僕もみんなと はぐれちゃって、みんなのことを探してたんだ。 ねえ、今から僕もそっちに行くよ。 そうすれば、途中で落ち合えるはずだから。 それじゃあ河原で会おう」

「ガッテン了解だぜ!」


 電話を切って、デニムの右ポッケにスマホをしまおうとした徹。 いつの間にか自分の服が変わっていたのに 初めて気づきました。 お気に入りの青いデニムのパンツから、青いごわごわした厚手のズボンになっていたのです。 上のtシャツも、ズボンと同じ生地の上着になっています。

(あれえ? いつの間に・・・ 何で、こんなかっこうに?) 思わず首をかしげたけど、とにかく今は 友達と再会して、無事を確かめる方が先です。

徹は、青いズボンのポッケにスマホを入れて 落とさないようにホックを閉めると、一目散に河原に向かいました。


三つ目の信号の角で左に曲がって、二つ目の街灯の下まで戻ってくると、徹は バス通りから外れて、芝生の土手を駆け下りました。 そこは、 一 時間ほど前 みんなで逃げる途中で例の光のシャワーに飲み込まれた場所です。

河原に下りると、徹たちが 逃げる時に投げ捨てた あのブーメランが四つ、そのまま てんでに落ちていて、おとなしく、ぼんやりと 黄色く光っていました。 徹は、見ないふりをして、今 紀矢が歩いているはずの獅子座町に向かって、川をさかのぼっていきました。


 不思議です。 全速力でここまで駆けてきたのに、ちっとも疲れていません。 それどころか 走っても、走っても、まるで羽が生えているみたいに 体も 足も軽くて、息もあがりません。


 しばらく行くと、向こうの方から 誰かがこちらへと走ってきました。 暗がりなので、かなり近くまで来てから ようやくその人のかっこうがわかりました。 お相撲さんみたいに まん丸な若者で、白っぽいヘルメットをかぶり、徹と同じ色と思われる 上下の服を着ています。 背中からは、白い大きな翼のような飾りが付いているのが見えます。 この人も、誰かを探しているのでしょうか? 周りをキョロキョロしたり、急に立ち止まって こちらを見たりしています。 徹も立ち止まって、じーっとその人を見据えました。


 「あの、すみません」 二人が同時に話しかけた声が、ピタッとハモりました。

「あ、ごめんなさい。 あなたから先にどうぞ」 徹が言うと、

「いやいや、そちらさんからどうぞ」と、相手も 右手で徹に順番を譲るジェスチャーをします。

2~3回こんな調子で譲り合っていたけど、なかなか らちがあかないので、思い切って徹の方から切り出しました。

「それじゃ 僕から。 ここに来る途中で、まん丸く太った 15歳くらいの少年を見かけませんでしたか?」

「15歳くらいのデブな少年だって!? もしかして もしかすると、それって おいらの事じゃないですか?」

「すみません。 体格は よく似ていますけど、僕が探している友達は、ゆったりした黄色いtシャツを着ています。 パンツも、ジャージみたいな感じです」

徹が はぐれてしまった友達の特徴を説明すると、相手の顔が ぱあっと輝きました。

「ほら! やっぱ おいらの事だ!! ん? おいらを探しているっていう事は・・・おまえさん 徹なのか? なあ、一年b組の『平田徹(ひらた とおる)君』だろ?」

「えっ、なんで僕の事、そんなに詳しく知ってるんですか?」 初めて会ったはずの人に、クラスと フルネームを言い当てられて、目玉が飛び出るほど驚く徹。

「あれ、なーに言ってんのさ? さっきから言ってるじゃんかよ、おいらが おまえさんが探してる『紀矢』だよって」

紀矢は 自分を指さしながら、にっこり笑ってみせました。


 でも、この人は 本当に仲良しの紀矢なのでしょうか? だって紀矢は、普段学校の制服の時以外は こんなぴったりした服は着ないし、ヘルメットで顔を隠しているところも なんだかくさいです。

そこで徹は、こんなお願いをしてみました。 「失礼ですけど、ヘルメットを脱いで、よく顔を見せてくれませんか?」


 若者がヘルメットを脱ぐと、首のない、だいふくみたいにまん丸な顔が現れました。 髪の毛と瞳は、なぜか深緑色になっていたけど、小さくてかわいい鼻も、二重顎も、とぼけた顔つきも、紀矢君そのものでした。

「ああ!! 本物の紀矢君だ。 疑って ごめんよ。 僕だよ、徹だよ」 やっと笑顔になれた徹は、自分もヘルメットを脱いで、紀矢に顔を見せました。

「なあんだ、水くさいなあ! そんなら、最初っから徹だって 言ってくれよー。 緑の目ん玉で じろじろにらんでるし、戦闘服みたいなの着て、ヘルメットなんかかぶってるからよ、どこの暴走族が来たかと思っちまったぜ」

お互いが探していた相手だったという事が、ようやくわかった徹と紀矢。 ハイタッチをして、再会を喜び合いました。

〰つづく〰


 「ファンキー・ピケット」 次回のお話は? 

 こんにちは、1年b組の色男,紀矢です! 


 徹と やっとこ会えて,彩たちの無事がわかって、これで安心して帰れるぜ! 

 ・・・とか思ってたら、おいらたち またまた面倒な事になっちまってよー。 おうい、母ちゃん 助けてくれよー!! 


 第3章 やっと会えたのに 

 絶対見てくれよな‼️

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