1分30秒小説『次に風が来たら踊らないか?』

 枯れ葉に飴の包み紙が寄り添ってる、自らの意思で。

 

 枯れ葉は心苦しい――この包み紙は、僕を蔑んでいるのだ。僕の隣に居れば自分の色彩が際立つ。「私を見て!こんな枯れ葉とは違って、美しいでしょ?」と言いたいのだ。


「それは違います!」

 包み紙が言った。

「え?」

「聞こえましたよ。心の声が」

「そうか、ならそういうことだ」

「いいえ、違います」

「何が違うんだ?」

「貴方の事を蔑んだりしていません。それどころか私は、貴方が羨ましくて仕方が無いのです」

「嘘だ!こんなボロボロに朽ちた葉っぱのどこを羨むというんだ?雨に打たれ、風に吹かれ、いずれ大地に溶けて、新たな芽の栄養になって消えてしまう。それが僕の定めだ」

「この色彩は束の間、いずれ陽に褪せ、塵や泥で汚れてしまう。貴方のように、大地に抱かれて溶けてゆくこともなく、醜態を延々と晒し続ける。私の心はきっと体よりも先に消えてしまうことでしょう。私だって、新芽の為に、春の為に、新たな命の為に、この身を捧げたい。でも私は私のまま消えてゆくのです」

「……ごめんよ。君には君の悩みがあるんだね。僕には理解できない部分も多いけど、それでも、君の想いが伝わってきたよ。お詫びと言っちゃあなんだけど――」

「はい?」

「次に風が来たら踊らないか?」

「喜んで!」


 気を利かせた秋の風、三拍子で吹き下ろす。どこかの雑踏、誰かの足下。


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