1分10秒小説『名君』

 中東の或る国、2大メーカーが自動車市場を独占し、激しい競争を繰り広げていた。2社のオーナーは互いをライバル視し、いがみ合っている。両オーナーには共通点があった。社員に厳しく、ケチで、攻撃的。

 相手方が高性能な車を開発すれば、オーナーは激昂し、開発陣に当たり散らし、マスコミに大金を払って相手を貶める記事を書かせ、スパイを送り込んで技術を盗もうとする。そんな不毛な戦いが20年以上続いていた。


 第三王子が主催するパーティーで、両オーナーが鉢合わせた。互いに激しく罵り合う。場は白けてしまったが、王子が面白がって提案した。

「ならば両社の車を戦わせてみようじゃないか!」

 顔を見合わす両オーナー。

「オーナー自ら、自社の車を運転し、加速し、高速で激突し合うのだ。そうすれば、どちらの車が耐久性に優れているか、自ずと明らかになるではないか?!」

 両オーナーは嬉々として、自社の車の堅牢性を喧伝し、相手の車の脆さを嘲笑した。腹心たちが危険だから思いとどまるよう説得したが、人の意見を聞くような人間ではない。むしろ説得は逆効果、両オーナーのボルテージは最高潮に達した。


 決闘の日。

 両社の社員が、自社の敗北を期待して見守るなか、フラッグが振られ、車が走り出し、ぐんぐん加速し、最高速に達したところで、激突した。

 結果、両社の社員は手を取り合って喜び、後に2社は統合され、国際的な大企業に成長した。

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