1分40秒小説『男と石そして時間』

 河原に男がいる。水は無い。丸こくて小さな石が地面を埋め尽くしている。ここにはあるのは、男と石それと時間。

 

 何もすることが無い。石しかない。時間はある。男が石を積み始めたのはある意味必然。できるだけ平たくて大きな石から始めて、徐々にその輪郭を小さくし、段々と積んでいく。

 腰ほどの高さに積んだ石塔、男は腕組みしてそれを眺め、深く息を吐く。息が終わらぬ間に、背後から何かが現れ、男の前に立つ――牛っぽい角、赤黒い肌、手には金棒、虎のパンツ。どうみても鬼。

 声も出せず地べたにへたり込んだ男、そして石の塔、それぞれを交互に眺め鬼、満面の笑みで一言。


「イイネ!」


 からん……から、からかっしゃん。

 石塔を蹴飛ばした。「ええー!」思わず叫ぶ男。何処へともなく消えていく鬼。


「くそっ」

 

 やり直す義務はないのだが、男はそうした。それ以外にすることがない。自分と石と時間、それ以外何もないのだから仕方ない。


 暫くして、同じような石塔が完成した。いや、さっきのよりは真っすぐだし、石の色のグラディーションが天辺に向けていい感じに抜けている。

 男は石塔を見て微笑み、大きく頷いたその拍子、背後から影、また鬼だ。今度のは薄ら青い肌をしている。にっこりと微笑み。親指をぐっ、片目瞑り。


「イイネ!」


 からから、からんかしゃん。

 消える。


「くそっ、やり直しだ」


 男は石を積む。その度に鬼に蹴飛ばされる、それでも石塔を作り続ける。選択肢は、無い。

 ここは石と時間しかない世界。

 男は生前、イイネの亡者だった。

 

 そう、ここは『イイネ!地獄』。

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