1分30秒小説『蟻並ンZ』

 N博士は、”怠け者に勤労意欲を起こさせる薬”を研究している。研究対象は――蟻だ。


 蟻――『アリとキリギリス』の寓話でも知られるように働き者で有名な生き物である。が、実は働き蟻のうち、約20%は働かずにサボっているという事実を皆さんはご存じだろうか?


 N博士は勤勉な蟻と、怠け者の蟻を分別し、それぞれの体内にあるホルモンを調べ、勤勉な個体群の体内にのみ多く存在するホルモンを探し当てた。後はそれを抽出、培養、濃縮すれば――新薬の完成だ!

 

 実験――怠け者の蟻に投与してみると、すぐに効果は表れた。

 怠け者だった蟻は、勢いよくダッシュし、餌を担ぎ上げ、巣に運び始めた。

 実験は成功、N博士は、息子に投薬することにした。そもそもN博士の研究は、引きこもりでニートの息子に、勤労意欲を起こさせることが目的だった。安全性は確認してある。N博士は研究所からこっそり薬を持ち出した。


 息子の部屋の前に立つ。ノックする。いつものように返事はない。ドアを少し開け、食事を乗せたトレーを差し入れる。食事には例の薬が入っている。


 10分後。

 

 バタン!ドアが勢いよく跳ね開けられた。猛ダッシュで階段を下りて行く息子の後ろ姿。

「やった!」

 大喜びで後を追うN博士、息子は台所に飛び込み、冷蔵庫からパンをひっ掴むと、靴も履かずに庭に飛び出し、蟻の列の最後に並んだ。

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