1分20秒小説『大鋸』

 注文を伝え手持無沙汰、張り紙のメニューを冷やかす――キツネ蕎麦、タヌキ蕎麦、大ザル蕎麦、アナタの蕎麦。ん?アナタの蕎麦?


 老夫婦二人で営んでいる様子。奥でおじいさんが蕎麦を茹で、お婆さんが配膳、音も立てずにスーと、なんだかスターウォーズのロボットに似てる。

 「お待ちどうさまです」

 来た。いただきます。箸を付ける。ん?お揚げさんが見当たらない。キツネ蕎麦を頼んだはずなのに、肉が浮いているだけだ。

「あのー、キツネ蕎麦を頼んだんですけど」

「あい、キツネです」

「いや、油揚げが見当たりませんが」

「へい、最近はめっきり獲れなくなりましてのぉ。昔はちょっと山道に入れば大抵目にしたもんですがの」

「はぁ」

「タヌキも大ザルもじゃ、とんと見かけんようになってしもうた」


 かみ合わない会話。肉を箸で摘まむ、目の高さまで持ってきて、窓の陽光に翳す。げほり咽せる――獣くさい。


 隣の客が――。

「はは、面白いな。このアナタの蕎麦っての一つ貰おうか」

「へい、じゃあこれを飲んで待っといてくだせえ」

「ごく、ん?変な味がするなぁ」

「じきに効いてきますでの、あんまり暴れんといてくださいや。じいさん、アナタの蕎麦じゃ」

「あいよ、ばあさん大鋸持ってきてくれ」


「大鋸?」

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