ゴブリン
ゴブリンたちは今となっては油断さえしなければ簡単に対処できる敵。そんな風に思っていたのだが、俺の認識は少々間違っていたらしい。
ゴブリン。魔物たちの中では比較的非力で、数と多少の知恵以外恐怖とは言えないその種族は――
蹂躙する対象だったらしい。
ミーアトリアは、真っ白だったはずのワンピースを赤緑色に染めながら平坦な表情を浮かべて帰って来た。
「とても楽しかったです」
「お、おう……」
「一匹だけ残しましたので、後を追いましょう。すぐにメインディッシュですよ」
「そう、だな。レイア、マシロ、行くぞ」
「ミーアトリアちゃん、やばすぎです……」
「お外怖いミーアトリアちゃん怖い……」
ついでのように二人の少女も震え上がらせるミーアトリアであった。
俺たちはゴブリンの巣を見つける手段として、とても古典的な手段をとった。一匹だけ敢えて殺さず、逃げ帰った所を狙うと言うものだ。俺たちはミーアトリアの先導を受けながら近くの森へとやって来ていた。
「こちらのようでございます」
「結構深くまで入ってきたな。そろそろか?」
「うぅ、マシロ狭いところは苦手です……」
「きゃっ!? い、今首筋に何か付いたようなっ!?」
レイアの押し殺された悲鳴が可愛い。マシロにももっとレイアのような乙女らしさがあればいいのだがマシロに望むのは酷というものだろうか。
「皆さま、集中してください。目的地みたいですよ」
「どこだ、見せてみろ」
「あちらでございます」
雑多に映えた低木を掻き分けながらミーアトリアは小さな洞窟を指差した。
「血の跡が続いております。間違いないかと」
「そうか……マシロ、レイア。最大の警戒をしながら先行しろ。敵を止められるのなら止めろ、止められないなら構わない、後は全部ミーアトリアがやる。いいな?」
「分かりました!」
「ぜ、絶対にやり遂げて見せます!」
マシロが自信満々に言い放ち、レイアが自信なさげにも力強く頷く。
マシロが盾を構えて駆け出してレイアがそれに続く。
「レイアちゃん、明かりお願いします!」
「分かったよ!」
マシロが一歩前、レイアがそのすぐ後ろに立つ。レイアは洞窟の壁に沿うように《守り手》を発動することで明かりを確保する。《守り手》の壁が僅かに発行することを応用した照明だ。
そのままの勢いで洞窟へと駆け込んでいく。
「ミーアトリア、行くぞ。視界から外すだけで心配になる」
「お優しいことですね、主様」
「後のことが怖いだけだよ、責任がな」
「そう言うことにしておきますね」
言い捨てるように呟いたミーアトリアの言葉は拾わない。代わりに進みだしたミーアトリアの背中を追う。
ぐんぐん進んで行くマシロとレイア。すぐにゴブリンたちと接敵したようだ。ゴブリンの甲高い悲鳴が響く。そんな中で、マシロの驚きの声が一層大きく響いた。
「ちょっ!? な、なんですか、こいつ!」
「マシロちゃん不味い! 早く退かないと!」
戦い慣れた二人。俺が今まで面倒を見てきて一人前だと思ってきた二人が、すぐに撤退を宣誓したその相手。ミーアトリアは振り返って俺を見た。
「分かってる。もしもの時があったらいけないから、俺が付いて来たんだぞ」
「まだ、何も言っておりませんよ」
「それでも分かってるさ。安心しろ」
「頼もしい限りですね」
「皮肉か?」
「本音です」
軽口を反響させながら、俺たちはマシロたちへと追い付いた。
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