レイア・ヒノーラ
レイア・ヒノーラ。
ニバール出身のごくごく普通の少女だ。と言っても十四歳で公務員に就職する、少し特殊な境遇の持ち主ではある。
いや、最早普通ではないのだろう。
彼女は、勇者候補の一人だ。
「《守り手》」
レイアが右手を伸ばし、その掌をめいいっぱいに開いて叫んだ。掌の先で、半透明に黄色く輝く直方体の何かが現れた。
それはレイアに迫っていた何体ものゴブリンたちの行く手を阻む。
ギフト《守り手)。
自身の力量によってその大きさを変更できる直方体の壁を、自在に生み出せるという、いわゆる当たりギフトだ。
半透明に黄色く光る壁の強度もまた力量次第ではあるが、高々ゴブリンの攻撃程度では壊せないくらいには固い。また、今のレイアでも俺の身長を優に超える壁を生み出せている。
レイアは左手で剣を握り、別方向から迫って来るゴブリンたちを演武のような軽やかさで滑らかに切り裂いていく。
レイアの剣術は、マシロと違って俺譲りの物ではない。あれはイゼ譲りのものだ。
イゼはあれで剣術の達人だ。その実力は俺などよりも遥かに上。無論、俺に教えを乞うているマシロやイゼ本人に師事して貰っているレイアよりも上だ。言ってしまえばニーバル一の剣士なのだ。
そんなイゼに習った剣術は繊細でいて美しい。血みどろの戦いの中に可憐さを取り入れるレイアの戦い方は真っ暗闇の中でこそよく映えた。
月光をその剣に映しながら夜空の黒を赤く染めるレイアの剣舞の前にゴブリンたちはまさしく無力であった。
レイアは自身を囲んでいたゴブリンたちを一蹴すると、守り手の壁を消し去ってから俺の方へと寄って来た。
「メイゲルさん、どうでしたか!? 僕、成長できているでしょうか!?」
「ああ、もちろんだ。一人前を名乗ってもいいくらいだ。イゼからだって、免許皆伝されたんだろ? あとは実戦を積むだけだ」
「ありがとうございます! 僕、これからも頑張ります!」
褒められたことが嬉しく、そして恥ずかしくもあったのだろう。
レイアは僅かに頬を赤く染めながらはにかんだ。
なんだこいつ、可愛いかよ。
初めて役所で出会った二年前。こんなところで働く少女だ、マシロやハトリールと同様に何か致命的な欠点を抱えているに違いないと信じて疑わなかったのだが、今でもその仮説は立証されていない。いや、今後一切立証される見込みなど存在しない。
レイアは人見知りこそするが今では穏やかな一面を見せてくれているし、戦闘能力は十二分、家事スキルを備えその上常識がある。ギフトが少々珍しい以外に大きく一般から逸脱することはない、素晴らしい人材である。
気遣いが出来るし、笑顔が可愛いし、距離感が近すぎたり遠すぎたりもしない。基本的に俺を慕ってくれているようだし文句の付け所が無い美少女だ。
あとはもっと女性らしいファッションを勉強すれば、嫁としてどこに出しても恥ずかしくないいい女に熟することは間違いないと俺はそう確信している。
「あ、あの、メイゲルさん……?」
「どうせまた、レイアちゃんの花嫁姿でも想像してるんですよ」
「は、花嫁姿!? そ、そんな、ぼ、僕は……」
ほくほく顔で帰って来たマシロが鋭い。
「別に想像なんてしない。似合うだろうなって思っただけだ」
「図星じゃないですか」
「ぼ、僕は男なんですけど……」
レイアが恥ずかしそうに小声で何かを呟いたが、そんなことよりもその仕草もまた可愛らしい。
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