プリースト同士の抗争
「ちょっとちょっと、この小屋、もう廃墟だヨ」
「いくら我を失っているとしても、やりすぎだぞ……」
1連の攻撃が終わった。
連続した水の刺突は連撃を止め、崩れた小屋から出ていた粉塵が収まった。その向こう側では、なおも怒りの表情を浮かべたアズリアが、その隣にウンディーネを連れて立っていた。
精霊。
それについての仮説は無数に存在しているが、最も一般的なのはそれが竜から生まれた、力の代行者という説。これだけ話すと竜についてもよく説明しなくてはならなくなるが、今はおいておくとしよう。
「水の上位精霊、ウンディーネ。聖竜、精霊名はイリヤだったカナ。それに仕える四大精霊の内の1体で、あのシスターアズリアが呼んだのはそれの現身カナ。といっても、その力は本物には到底及ばないはずだけどネ」
「詳しいな、ハト」
「当然でショ。私たちは冥竜教に属しているけれど、聖竜教の教示も伝承も把握してル。だって、聖竜教が現代で最も教徒の多い宗教であることは確かだからネ。己を知るにはまず他を知ることからって言うのが、うちのポリシーだからネ」
「さっきからぶつぶつぶつぶつと! 大人しく痛い目みておけばいいのよ!」
俺たちが家具の影に隠れて話をしていると、ますます声を荒げたアズリア、が再びウンディーネに指示を出して攻撃を始めたさせた。
「ハト、あれ防げるか?」
「舐めないで欲しいネ。こんなんでも、冥竜教の司祭様ダヨ? あんな小童助祭に後れを取ると思われては心外この上ないネ。……万物は奔流に抗い流転する。歪曲せよ、《
黒塗りの杖を両手で強く握ったハトリールが、何やら呟きながら念じれば、俺たちへと向かってきていた鋭く尖った無数の水が狙いを逸らして大きく外れた。
代わりに小屋の至る所に攻撃が行き届き、すでに廃墟どころか骨組みだけを残した残骸の塊になりかけてはいるが……今更気にしてもいられない。
まあ、せっかくハトリールが作った隙だ。しっかり活かしてやらないとな。
「えっ!? な、なんで攻撃が散らばってっ!?」
「そんなことよりこっちを気にしたほうがいい、ぞ!」
「きゃっ!?」
ウンディーネを操っているのはアズリアだ。
その上1度召喚してしまえば何もしなくてもいい、というほど召喚魔法は単純なものではない。その造形を維持するのにも集中力を必要とするし、主の管理下を離れた召喚対象は帰還する。
特に、ウンディーネは人の手で召喚できる存在の中でもかなり上位に位置している。召喚者の意識が少しでも逸れれば、それだけで存在を保てなくなる!
何も無理やり抑えつける必要も、傷をつけてやる必要もない。俺は腰に刺した剣を抜くこともなく、両手に力を籠めてアズリアを軽く突き飛ばした。
受け身を取りこともできずにアズリアが尻餅をついた途端、先程まで荒波のように慌ただしかったウンディーネの姿が霧となって消えて行った。
「あっ!? ウンディーネが!?」
「これで、頼みの綱は無くなったわけだ。さ、まだ続けるか?」
体を起こし、驚いた顔を浮かべたアズリアに手を差し伸べながらそう言えば、アズリアはしかし目元を鋭くさせて睨んで来た。
どうやら諦めていないらしい。
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