平和が一番。

 タマがいない。

 見える範囲に影も形もない。


 いつはぐれたんだ?


 悪党に絡まれた時かな?

 それとも怪しい物売りと話してた時?



 うーん。

 わからない。

 

 無敵のタマのことだから

 心配なにも無いけれど


 酔っぱらいの自分とアイアンでは、帰り道が全く分からない。


 しかし今の自分はお酒の力により全知を成す。


 どこかから即座に答えが落ちてきた。

 


   分からないのは分かる必要がないからです。



 そうだよね。

 うんうん。


 よい答えを得たところでドンと腰を下ろし、岩肌に背を預ける。

 リュックからポテトチップの海苔塩味カタスギを取り出し、

 大休止を始める。


 タマならきっと、動かずお酒を飲んでれば

 いつかは見つけてくれるだろう。


 ポテトチップの封を開け、紙皿にガサッと流し出す。

 踊りを止めたアイアンがピョンと一飛びで寄って来る。



 「美味しくいただこうか。」


 「ぎゅあ!、ぎゅあ!。」


 

 パクリと一口。

 ボリボリボリ。


 うまい、

 美味いね。


 丁度良い塩加減が癖になる。

 過ぎるという程の硬さもなく、いい感じに食べやすい。


 これが大手メーカーの食品研究の成果というやつか。

 

 すばらしい。

 止まらん。


 口に運んでは酒を飲み、

 飲み終えたならまた運ぶ。


 

「ぎゅあ!、ぎゅあ!。」



 絵顔で頬張るアイアン。

 中々にいい食べっぷりだ。


 揚げ芋沼の仲間がまた一人増加した。

 ふふっ。この沼は暖かいぞぉ。





 最後のポテトチップをアイアンに譲り、紙皿を片付けていると、

 遠くからタマが駆け寄って来た。

 


「お帰り。どこ行ってたの?。」


「にゃあ。」



 いつもどうりの澄んだ声。

 ちょっと覗き魔に釘を刺してきたらしい。


 へー、そんな悪い奴がいたんだ。全然気づかなかった。

 


「ありがとう。タマ。」


「ぎゅあ!、ぎゅあ!。」



 アイアンも何だか良く分かってないけど、もろ手を上げてタマに感謝している。


 感謝の表現なのか、手を上げたままタマに突っ込み、頭を擦りつける。

 しかし、すぐにタマのパンチがアイアンに降り注ぎ、地面に張り倒される。


 ……たぶんお酒臭かったんだろう。

 

 叩かれたのが嬉しかったのか、何度も頭を擦りつけようとするアイアンと

 それをひらりと躱し続けるタマ。


 平和な猫のじゃれ合い。

 

 ずっと見ていたい所だが、今日は8階層まで行きたいので

 二人を撫でて平和な一幕に終止符をうつ。


 

 「タマも戻ってきたことだし、そろそろ進もうか。」


 「ぎゅあ!、ぎゅあ!。」



 ニコニコ顔でいい返事のアイアン。

 いつも通りすました顔で頷くタマ。


 すっと立ち上がり、軽く体を解す。

 


 「それじゃあまた階段まで、よろしく。タマ。」


 「にゃあ。」

 

 

 短く一声上げると、タマはすぐに駆け出していった。

  

 

 

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