悪党退治。

「あんた、動画の男だろ?、あんだけいっぱいモンスター倒してんなら金持ってんだろ?ちょっと分けてくれよ」



 ……は?

 自分の体に申し訳ないが、耳を疑う。


 ゆく手を遮る探索者が下卑た笑みを浮かべながら言葉を話したが、

 ちょっと理解が追い付かなかった。



「え?もう一度言ってもらえる?」


「金を貸してくれって言ったんだよ、なぁ?持ってるだけでいいからさ」



 ああ、良かった。

 自分の耳は正常だったみたいだ。

 そして、目の前の奴らはただの悪党だとはっきりした。


 じゃあ、

 まともに相手する必要もないか。



「貸すわけないだろ。それに動画の男でもない。」


「は?まだそれ言うわけ?いいから金置いて…」

 ガシュッ。



 先手必勝。

 後手プレミ。

 喋っている口に手刀を突き入れ、下顎を掴み、力強く下に引く。

 この一週間モンスターを倒して来たからか、だいぶ力が強くなっており

 抵抗もなく下顎が外れ、瞬く間に足元に転がった。


 自分の力に驚きそうになったが、周りに悪党がまだいるので

 顔に出さないようにし、左にいるアイアンに声をかける。



「アイアン!走ろう!。」


「ぎゅあ‼。」



 アイアンの猫の手が音よりも速く伸びる。

 そうじの右隣に立つ悪党を絡めとり、凄まじい速度で一回転。


 囲んでいた6人の悪党は壁に、掴んでいた1人も地面に勢いよく叩きつけられた。

 叩きつけられた7人はピクリともせず、動き出す気配は無い。


 あれ?

 走って逃げようと思ったんだけど………


  まぁこっちの方がいいか。

 悪党にはいい薬になっただろう。


 自分が引き倒した悪党もいつの間にか気を失っていたので、

 そのまま駆け足でこの場から離れる。



 それにしても大変なことになったなぁ。

 まさか蜘蛛を倒している所を撮られていたなんて。

 しかもブレスで薙ぎ払っている所を。


 どうしたもんかなぁ……。


 人のいなくなった砂利道をゆっくり歩きながら考える。

 ダンジョンセンターに入ってから、なぜ目立っていたかは分かった。


 正直、

 目立つのは嫌だ。



 ただ、これといってどうすればいいか分からない。

 今更拡散した動画は消せないし、顔を隠すとかもやりたくない。


 じゃあ、どうする? 


 ……取り合えずお酒に聞いてみよう。


 リュックからいつものウルトラストローグを取り出す。

 アイアンと分け合い、一口でグィっ!


 ああ、うめぇ。


 冴えわたる思考。

 満ち溢れる全能感。


 今まで悩んでいたことが、一切合切どうでも良くなった。


 別に良いか、目立っても。

 実害が有るわけでもないし。


 また絡まれたなら、さっきみたいに跳ねのけよう。


 お酒の力により、簡単に答えが出た。

 これだからお酒は止められないぜ。ゲヘへ。


 子悪党の笑い声を上げながら、ゆらゆら踊るアイアンを見ていると、

 あることに気づく。


 いつもの猫パンチや冷たい目線が飛んでこない。


 あれ?どこいったの、タマ?

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る