とおせんぼ。

 そそくさと逃げ出し、テキトウな通路に入る。


 あのまま話を続けても、言葉巧みに操られ、

 散財する羽目になっただろう。


 逃げ出せた自分、

 えらいね。


 アイアンを下ろし、一息つく。


 このまま宝箱を求めて探索、といきたい所だが

 この人の数では取り合いになるだろう。

 残ってるかどうかも怪しい。

 

 それに、何だかガラの悪そうな連中もそれなりにいた。

 関わらないようすぐに下の階へ行こう。

 


 タマの先導のもと、階段へまっすぐ進んでいると、

 そこかしこからチラチラと視線が飛んでくる。


 良い感じがしない。


 もしかして目立ってる?。


 まぁ、周りを見ても皆立派な装備で固めてるし、

 普段着でダンジョンに潜ってるのなんて自分だけだから仕方ないのかな。


 駆け足に速さを変えた途端、後ろの探索者に呼び止められる。



 「おいあんた、ちょっと待てよ」



 言葉を聞いただけで嫌気がさしたが、一応立ち止まってアイアンと一緒に振り返る。

 下三白眼の軽薄そうな男だ。

 街中で出会ったら避けて通りたい感じの。



「なんですか?。急いでるんですけど。」


「この動画に映ってるのってあんただろ?」



 突き出してくる携帯端末。

 そこに映る大量の蜘蛛と、アイアンらしき猫を持ち上げた自分らしき人影。

 

 ……やばい。

 極太猫ビームで蜘蛛を薙ぎ払っている所を盗撮されていたみたいだ。

 

 一体全体どうやって撮られたのか全く分からないけど

 取り合えず否定しておこう。

 認めていいことなんて何も無いからね。



 「違います。」


 「いや、どう考えてもあんただろ、映ってる猫もそこにいるじゃん」



 クローズアップされる自分とアイアン。

 ……自分もそう思うよ。



 「人違いに猫違いです。」


 「ハァ?ふざけんなよ!リュックも服も一緒なんだからてめぇに決まってんだろ!」



 声を荒げ、たったこれだけの問答で怒りを顕わにする軽薄そうな男。


 こりゃ、どうしようもない。

 立ち止まるんじゃなかった。


 男の仲間らしき一団もこちらに近づいて来た。


 いよいよ危なそうだ。

 三十六計逃げるに如かず。



 「違います。それじゃっ。」



 言葉一つ置いて身を翻し、走り出そうとしたら、肩を捕まれる。



「逃げんなよ!話してる途中だろ!」

 

「放してください!。こっちに話すことは無いんで!。」



 肩の手を振り払うと反対の手で胸倉を捕もうとしてきたが、

 なんだか動きが遅かったので、さっと手を躱す。


 そのまま逃げ出そうとしたら、既に後ろを取られていた。

 避けて進もうとするも、前に出て邪魔をする数人の探索者。

 ニヤニヤと笑っている顔が完全に小悪党のそれ。


 やめてくれよ。ホント。




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