高いね。

 うおお、

 すげぇ。


 ダンジョンでは一度も見たことがない数の人。


 多いね。


 今までは会ったとしても、

 一階層で稀にすれ違うだけだったのに。


 食べ物を売る人までいる。 


 冷たい岩肌と砂利道は同じなのに、何だか暖かく感じる。

 

 確かこの階層から現れる宝箱に

 結構な確率で複数の魔力ポーションが入ってて、

 それの買取価格が一本2万円になるし、


 ポーションじゃなくても、大体の物が1万以上の買取だから

 稼ぎ場として人が集まってるんだったかな。


 何にせよ今の社会で働くよりずっとか実入りがいい。

 現状それでも探索者が増えない訳は、自分の体験した通り

 命の危険が多すぎるからだろう。



 くわばら くわばら。



 物珍しそうに歩き進んいると、声をかけられる。

 


「そこのお兄さん、何か買ってかないっすか。色々ありますよ。」



 薄紫色の皮鎧を身に着けた金髪の男。

 中性的な顔立ちに笑みを張り付けながら、言葉を続ける。



「お酒にポーションに即席ラーメン。お菓子もそこそこ。お湯はこちらっす。」



 男の物売りが示す先を見ると、

 白いクロスがかけられた机の上に多くの商品が並んでいる。


 あと、下の方に電気ポット。

 折り畳みの椅子まである。


 この物量をどうやって運んできたのか不思議に思ったが、

 机の横で佇んでいる八本足の黒い馬に気づき、即座に理解。


 お酒に引かれたのか、アイアンがフラフラと近寄っていき

 机の上に飛び乗る。



 「ぎゅあ、?ぎゅあぎゅあ?。」



 多数の商品に目移りしているアイアン。

 


「こちらの可愛らしい猫ちゃん、独特な鳴き声っすね。名前はなんていうんすか?」


「あ、すみません。アイアンって言うんですよ。」



 自分も近づきアイアンを持ち上げる。



「おお、強そうないい名前っすね。どうです、そちらの猫ちゃんでも着けられる、いい装備があるっすよ。」


 何だか良く分からないが、取り合えず商品を見せてもらおう。

 アイアンが見やすいよう机の真ん中へ移動すると、物売りの男はどこからか商品を取り出した。



「猫型獣魔用の防御強化ハーネスっす!。なんとこれを装備するだけで防御力が上がるだけじゃなく、ソニックバットなどの遠距離攻撃も一日3回、無効にすることが出来るっす!。」


「おお、凄く強そう。それで、おいくらなんです?。」


「なんと今なら美味しい生菓子も付けて、たったの35万円っす!。」


「あ、けっこうです。」



 価値観が違った。

 35万円をたったと言える人とは、生きる世界が違うのだろう。


 ぺこりと頭を下げ、

 さっとその場から距離をとる。


 アイアンがまだ何か物欲しそうにしていたが、

 ああいう所は観光地価格と同じで、きっと全部高いに決まってる。

 

 すまん、アイアン。

 次の休憩の時、ポテトチップの海苔塩味カタスギを出すから、

 それで我慢してくれ。



 

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