使い道。

 ダンジョンセンターの外で一旦立ち止まり、考える。

 

 降って湧いたような23万円。

 このうち10万を滞納家賃の支払いに当てるとしても、13万円が手元に残る。


 13万円はでかい。


 防具の購入費用に取っておくか。

 あぶく銭としてぱぁっと使うか。

 いやいや、13万円も家賃返済に当てるという道も。



 分かれ道3択。


 防具を買えば安心は得られるが、正直今日みたいに大量のモンスターが出たら、どうにもならないと思ってしまう。しかしいずれは買わないといけない。


 ぱぁっとガチャやお酒に使ってしまえばストレスが抜けて楽になるが、心の中の善なる自分が「それでいいの?」と壁ドンしてきて耐えられそうにない。


 やはり全額返済が丸い答えだと選ぼうとすると、自分の構成要素うち8割を占める命の水が全力で抵抗してくる。仲間のお酒を呼べと体が震えて叫んでいる。



 ………



 選べない。


 

 どの道を選んでも何かが欠けそうで、迷いに迷う。

 うんうん唸っていても何にも進まないので、取り合えず大型スーパーに移動して夕飯でも選ぼう。


 選択を先送りにし、まだ高い夕陽に見守られながら、アパート近くの大型量販店へ。


 降車駅を間違える程、道中もずっと考えていたが、選び決められず、タマに叩かれて大型量販店に到着していることにようやく気づく。


 考えていたらいつの間にかスーパーの前にワープしていた。

 瞬間移動でもしたのかと不思議に思うが、周りも暗くなっており、時間も材料として過剰に使われているので、ただ自分が現実を見ていなかっただけだろう。



 急いでスーパーに入っていく。

 注意されないぐらいの駆け足で真っ先に総菜コーナーへと向かうが、少し遅かったみたいだ。

 目の前で半額シールの張られた最後のカツ丼と餃子と唐揚げが、手に取られてしまった。


 不覚、不覚である。

 

 ただでは起き上がれないので、何かないかと見て回っても発見できた半額シールの張られた物は、あんこ1㎏だけだった。



 これ、買う?



 ……



 ……



 ビニール袋を3つ下げてスーパーを出る。

 外で待っていてくれたタマとアイアンと合流。

 


 「ぎゅあ、ぎゅあ?。」


 

 心配そうなアイアンの声に、何とか「大丈夫だよ」と言葉を返す。

 全てを許す菩薩のようなタマの目に、後ろめたさを感じながら帰路につく。


 誰に対してか、心の中で言い訳を並べながら、ゆっくりと歩く。


 そういえば総菜戦争敗北の証しは、消費期限が今日の20時までだった。

 はたして時間までに食べきることが出来るだろうか。

 

 ちらりとアイアンに目を移し、すぐにまた前を見る。

 アイアンはいつもどうり、笑顔で幸せそうに歩いていた。


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