外へ。

 整然と動く蜘蛛の大群は、ものの数十秒で全てが上の階へと移動。

 ダンジョン脱出を妨げる悪意は、アイアンによって取り除かれた。


 闇が払われるかのように階段や岩肌が姿を取り戻す。


 やったね!階段が通れるようになった!。

 上に移動していったのは気になるけど、多分大丈夫だろう。

 

 ちらりとアイアンの方をみると、やってやったぜ!と言わんばかりのご機嫌な表情だ。

 近寄ってしゃがみ、頑張ってくれたアイアンを撫でる。



「ありがとう、アイアン。」


「ぎゅあ!、ぎゅあ!。」


「蜘蛛が上に行ったけど、このまま階段を上っても大丈夫?アイアン?。」


「ぎゅあ!。」



 力強い肯定の一声。

 我が酒飲み友のアイアンが保証するならば、確実に安全だろう。


 解決祝いに盃を一杯交わし、一呼吸つく。

 ああ、梅酒はどう飲んでもうまいなぁ。





 よし、それじゃあ、行きますか。


 立ち上がり、撤退行動を再開。

 平常通りの階段を、ゆっくり確実に上っていく。


 戻って来た2階層。

 なんだか気持ち暖かくなった様に感じる。

 蜘蛛の影は一切見当たらない。

 

 ふと、「あの大群は何処へ行ったんだろう?」と不思議に思うが、笑顔で歩いているアイアンを見て、どうでもよくなり、考えるのを止める。


 タマに先導してもらいそのまま一階層へ。

 

 道中何度かコウモリと遭遇するが、アイアンが何もさせずに全て叩き落とした。

 2階層も既に欠伸が漏れ出る散歩道だ。

 

 アイアン最強!。



 勝手知ったる一階層を何事もなく走り抜け、他の探索者と会うこと無くダンジョンを出る。

 

 今日はダンジョンを出ても視線を感じない。

 それだけで何だか笑顔が出て来る。


 やはり糸目男の一件で解決したのだろう。

 

 それに、今日はアイアンが壁の中で手に入れてくれた銀貨がある。

 スキップしたい気持ちを抑えながら買取窓口へ。


 丁度人も少なく、待たされずに換金成功。

 ダンジョンで出た銀貨は一律5000円での買い取りらしく、合計で23万4200円を現金で受け取った。


 会社人時代に受け取っていた月収の倍近くだ。やべぇ。

 これが日当かぁ。


 すげぇ。ぱねぇ。


 大金の魅力の前に、欠如する語彙力。



 窓口の人に大量の銀貨を何処で入手したのか聞かれたが、馬鹿正直に「壁の中です。」と答えても信じてくれないだろうし、アイアンが壁の中に入れることも話たく無かったので、リュックからお酒を見せて「お酒を飲んでたので殆ど覚えていません。」と誤魔化しておいた。


 若干呆れた目で見られたが、少しのお小言で解放してもらえた。ラッキー!。


 懐が暖かくなったので、ウキウキ気分でダンジョンセンターを後にする。

 さぁ何を買おうか、幸せの迷いどころだ。

 


 

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