天丼。

 残業確実な単純労度がタマの力により、消えて無くなった。

 あしたを自宅で迎えられるよ!


 やったね!

 こんなに嬉しいことはそうないよ!


 もろ手を挙げて喜ぶ自分とアイアンがタマに駆け寄り二人で胴上げ。



 ワッショーイ!。

 ワッショーイ!。

 ワッショーイ!。



 3回の胴上げで感謝と喜びを表現し、優しくタマを地面に下ろす。

 本当はもっと続けたかったが、「ここはダンジョンだぞ!」というタマからの圧を感じたため、3回に留めておいた。



 「ぎゅあ!、ぎゅあ!♪。ぎゅあ!、ぎゅあ!♪。」



 アイアンもタマの周りを踊りながらグルグル回り、声を出して感嘆の意を伝えている。


 これで他の探索者に迷惑をかけることも無くなったし、時間的に少し早いがダンジョンを出ようかな?。

 魔石を落とさないモンスターなんて今まで聞いたこともないし、もっと調べて準備してから下の階層に潜った方が良さそう。


 よし。

 そうしよう。


 蜘蛛の大群はゾワゾワと来るものがあったけど、結果的にタマのビームも見れたし、これはこれでいい経験になった。



 もう二度とごめんだけど。




 決定した方針に従い、撤退を開始。

 タマに先導してもらい、上層の階段へ向けて、お酒でメンタルを回復しながら砂利道を歩いていく。


 モンスターに会うことなく数分進むと、階段が遠目に見えて来た。

 

 近づくにつれ感じる違和感。

 階段や周りの岩壁が、なぜだかもぞもぞと動いて見える。



 あー、あー、

 お酒がだいぶと回って来たみたいだー。



 目に見える全ての違和感をお酒のせいにして拒絶したいが、歩を進めるたびに解像度が増していき、吐き気を催す現実が、視界全てを埋め尽くした。


 

 また、だ。


 

 階段の中とその周囲一帯を毒々しい葡萄酒色の蜘蛛の大群が、ところ狭しと動き回っている。ビームで殲滅した蜘蛛より二回りほど小さいが、危険度は寧ろこちらの方が高く感じる。

 


 もうやだ、おうちかえる。



 帰るにはあそこを通らねばならぬ。

 神話の奇跡みたいに、自分達が通る時だけ蜘蛛の海が割れて、道が出来ないだろうか。



 ……まぁ無理か。



 ため息を吐きたくなるが、ぐっと堪える。


 タマに再びお願いしようか考えていると、前に出て来たアイアンが元気に飛び跳ねて主張する。



「ぎゅあ‼、ぎゅあ‼。」


 

 やる気満々な強い声。

 キラキラ光る目を見るに、ここは任せて欲しいと言っているのかな?。



「アイアンがこの蜘蛛の大群を何とかしてくれるの?」


「ぎゅあ!。」



 コクリと頷くアイアン。



「よし!。じゃぁ、お願い!。」


「ぎゅあ!、ぎゅあ!。」



 一瞬、タマが不安気な表情をしている様に見えたが、気のせいだろう。



「ぎゅあ‼。」



 力強い声と共に、アイアンの目が怪し気にまたたいた。

 数秒後、毒々しい蜘蛛の大群は隊列を組み、階段を上へと昇って行った。


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