逃走劇。

 動き出した無数の蜘蛛。

 迫り来る黒い波。


 おぞけが走り、鳥肌が立つ。

 虫は嫌いではないが、これは無理だ。



 「ぎゅあ!?、ぎゅあ!ぎゅあ!。」



 アイアンもようやく気づいたのか、驚いている。

 

 立ち上がり、皆で走り逃げるが、右足の裏が痛い。

 足が絡み転んだ時に攣ったみたいだ。



 やばい! いたい! やばい! 



 重なり起きる悪い事柄に、慌てふためく自分の心。

 落ち着かせるため、素数を数えようと試みるが、13より先が思い出せない。


 あれ?そういえば1って素数だっけ?


 気になって思い出そうとするが、そんな状況じゃなかった。

 

 振り返ると、既に3馬身程の距離にいる蜘蛛の波。



 「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!。」



 驚き漏れる叫び声。

 痛みも忘れ、どこへとも分からず走る。走る。走る。

 

 大声で加速できたら良いのだが、そんな訳にもいかず、次第に距離が縮んでいく。


 ついには1馬身を切り、真後ろまで来た蜘蛛の波が、一斉にスプレーを吹くようなシューという音を鳴らし、白い糸を噴射。


 砂利道や岩壁が白で埋め尽くされていく。


 避けること叶わず、体に絡みつく太い糸。



「うわっ、なんじゃこりゃ!。」



 トリモチのようにねばねばで、手を振るっても体から離れない。


 何食わぬ顔で全て避けるタマ。

 アイアンには当たった傍から白い糸が消えている。



 あれ?

 もしかして対処できてないのって自分だけ?



 だんだんと糸が壁や地面にくっ付き、体が動かせなくなっていく。


 目前にまで迫る蜘蛛の波。


 いや、自分にはこの魔法のカードがある!。

 今こそ使う時だ!。


 光の速さ(自社調べ)でポケットに手を突っ込み、カードをがっしり手で掴む。

 


 なんとかなる!

 なんとかなる!

 なんとかなる!



 心の中で3回唱え、カードの効果が発動する。


 飛びかかろうとしていた蜘蛛の波全てが、不規則に動き始めた。


 あるものはひっくり返り、

 あるものは同士討ちし、

 またあるものは糸を吐き、自身をぐるぐる巻きにしていた。


 こちらに敵対的行動をとる蜘蛛は一体も存在しなくなっていた。



 ははは。

 

 圧倒的じゃないか、我がカードの力は。

 ポケットからカードを取り出し、手に挟み、感謝する。


 何とかなるカード様、ありがとうございます。


 危難を打開してくれたカードに感謝の意を示し、カードを確認すると、残り回数の数字が[3]になっていた。



 あれ?


 元々は6だったような?

 自分の記憶違いかな?


 まぁいいや。



 体に着いた蜘蛛の糸をタマの左手が消し去る。



 「ありがとう、タマ。」



 頷き返すタマが輝いて見える。

 かわいい。


 やはり世界で一番可愛いのはサビ猫かもしれない。



 動かせるようになった体で壁に手を付き、ゆっくりと立ち上がる。


 よし!。

 今の内に蜘蛛を倒していこう。


 


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