3階層の狩り場。

 紙コップにお酒を注ぎ、アイアンに渡す。

 銀貨のお礼だ。



 「ほら、た~んとお飲み。」 


 「ぎゅあ!ぎゅあ!。」


 

 いい飲みっぷりのアイアン。

 この銀貨がいくらのお金さんに変わるか分からないが、今飲んでるストローグ11が100本買えない、なんてことは無いだろう。

 買い取りの時が楽しみだ。


 鼻歌を歌いなが自分の周りを飛び跳ねているアイアン。

 声をかけて紙コップを回収し、銀貨と一緒にリュックにしまう。


 壁の中に入れる、というアイアンの力を知ることができたが、どう活かすかは追々考えよう。

 今は非常に気分が良く、頭が回りまくってるからね。

 

 なんだか今の自分達なら何でもできる!。

 3階層どころか最下層の8階層まで攻略できるかもしれない!


 あれ、最下層って8階層で良かったっけ?

 ……まぁいいや。


 10階層や100階層でもどんとこい!

 そう、なぜなら今の自分達は、無敵だからね!。



「取り合えず3階層へ!GO!GO!GO!」


「ぎゅあ!ぎゅあ!ぎゅあ!。」



 左手を突き上げ、声高々に前進再開。

 中身のない全能感に突き動かされ、タマに導いてもらい、フラフラと3階層に向かう。

 

 現れる敵全てをワンパンで制覇し、砂利道を進んでいく。

 特に他の探索者と遭遇することなく、3階層への階段を発見。

 

 2階層への階段と同じくほぼ坂道。

 転ばないよう壁を伝ってゆっくり降りる。


 ひんやりした岩肌が触っていて気持ちいい。

 今回は躓くことなく、無事に三階層へ降りることができた。

 えらいぞ、自分。


 

 見た感じ、3階層も今までと変わらない洞窟だが、少しだけ涼しくなっている。

 なんでもないことだけれど、新たな変化に顔がほころぶ。


 

 過去の記憶を掘り起こし、3階層に出て来るモンスターを思い出す。



 ………うーん、あー、えーっと、



 ………なんだったっけ?



 ………わかんないや!。


 

 発掘失敗。

 

 化石は粉々になっており、鑑定不能の判が押される。


 

 諦めよう。

 思い出せなくてもなんとかなるさ!。


 歩いてればその内出て来るだろうから、何も考えず前に進む。


 10分ほど歩いて進むと、今までに見たことのない、開けた空間にたどり着いた。

 取り合えずで中に入って行こうとすると、タマに足を叩かれる。



 なにかあるのかな?


 

 足元のタマを見ると、開けた空間の端の方を手で指している。

 指している方向をよくよく見ると、何かが無数に蠢いている。



 

 やばい。

 でかい蜘蛛だ。



 ここは蜘蛛の狩り場のようだ。



 一秒と待たずに冷める酔い。


 すみませんでした!何でもできるとか大ぼら吹いてました!。


 心の中で誰かに何度も謝り、撤退を決意。

 たとえ自分が勇者だったとしても、人の頭より大きい蜘蛛が数万匹待ち構えている部屋には入らないだろう。

  

 静かに来た道を戻ろうと身をひるがえしたら、足が絡まり転倒。

 呆れた顔のタマと、良く分かっていないアイアン。



 ああ、やっちまった。


 

 音に反応した無数の蜘蛛が、雪崩の如く動き出した。

 

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