出口へ。

 へ?

 一体どうしたんだ?


 急に力なく崩れ落ち、地に手を着く糸目男。

 力が抜けたからか、消失した足先、体の節々から血が流れ出る。

 顔を上げ、こちらを向き、何もかもを諦めたような表情で声を絞り出した。



「確かに、その通りです。私は人を騙し、人を………殺して来た。ならば、その報いは、受けるべきでしょうね……。」



 今にも自刃しそうな物言い。

 声は掠れていたが、感じた不快感や濁りが無くなっている。

 

 不思議と糸目男が、先ほどまでと同じ人間とは思えない。

 


 糸目男は弱弱しく手を地から離し、そうじの方へと向ける。

 そうじの目の前に灰色の粒子が集まり、 木彫りの扉を形作った。



「その扉を進めば……、あなたのアパート前に出られます。」


 

 はぁ、

 言ってることも逆になってる。

 ここから解放してくれるらしい。


 中の人完全に変わった?



 なら、いいか。



 木彫りの扉のドアノブに手をかける。



 「じゃあ、帰るわ。もう自分に関わらないでくれよ。そこで浮いてるドレス女にも言っといてくれ。」

 

 糸目男が驚き、


 

「とどめを刺さないのですか?。」


「反省したんだろ?声聞けば分かるさ、それぐらい。もう人に迷惑かけるなよ。」


「ぎゅあ、ぎゅあ。」



 アイアンも優しく声を出している。

 何か伝えたいのだろうが、良く分からない。

 


 まだ何か言いたそうな糸目男を無視し、扉を開け中に入る。

 一瞬、銀髪の女性が、糸目男の隣でこちらに向けて頭を下げた様に見えたが、気のせいだろう。






 

 扉の先は言葉どうり、自分の暮らすアパートの前だった。

 もしかしたら言葉は嘘で異世界に行くのではと夢想していたが、そんなことは無かった。


 日は既に落ち、点々と並んだ街灯が光を放っている。


 鍵を差し込み、扉を開ける。

 ただいま、と言うと、「にゃぁ。」と声が返ってきた。


 タマだ。


 やはりタマは頭のいい子だ。

 電車で逸れたはずなのに、アパートまで戻り、自分を出迎えてくれた。


 ありがとう。



 アイアンを肩に乗せたまま皆で中に入っていく。

 自室に戻れて安心したせいか、今までの疲れが体にドッとのしかかる。


 そのまま畳にペタリと座り込む。


 今日は色々とありすぎた。

 

 なぜ生き残れたのか。

 

 考えても出る答えは、 


 タマがいてくれたから。

 アイアンがいてくれたから。

 運が良かったから。


 自分の力でなしたことは、何一つなかった。


 なんとかしたい。



「もっと強くなりたいなぁ。せめて、自分の身を守れるぐらい。」



 ぼやきながら今日一日の感謝の念を込めてタマとアイアンを撫でる。

 撫でているとお腹が グゥ となる。


 そういえば今日は起きてから何も食べていなかった。

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