何とかなるカード。

 訳が分からない。

 

 アイアンが声を上げてから急に糸目男が襲われ出したが、もしかしてこの惨劇はアイアンが引き起こしているのだろうか。

 

 肩にくっ付くアイアンに目を向けると、タマの姿のアイアンは怒ったような目で糸目男を見つめている。 


………


 なんだかよくわからないが悪党の数が減って、また一歩、物理的に世界平和が近づいた、ということにしておこう。


 ただ、糸目男はまだ生きている。

 赤いオーラを身に纏い、平然と立っている。


 おかしいだろ。


 明らかに人間が生き残れる様な爆発じゃなかった。

 現に糸目男以外の人間は、頭や胴も残さず、全て肉片となって散らばっている。


 赤いオーラが所謂主人公補正というやつなのだろうか?

 インチキだろ。それだけの力が有るならもっと世のため猫のために使えばうんたらかんたら………。

 

 どうでもいいことを考えていると糸目男が口を開く。



「いやいや、よくもやってくれましたね……。まさかこれ程の支配能力を持ったモンスターを手懐けているなんて。一体どこに行けばそんな化け物に出会えるんです?」


 

 声を聞いただけで不快感。

 体から拒否反応。



「ぎゅあ!!、ぎゅあ!!。」



 アイアンも言葉が気に障ったのか怒りを露にしている。


 まともに受け答えをしたくないので、テキトウに答える。



「あんたの方が詳しいんじゃないかな?」

 


 投げかけた言葉一つで分かりやすく動揺する糸目男。

 何か心当たりでもあったのだろうか。


 数秒後、平静を取り戻した糸目男が言葉を続ける。


「確かに。それならば、我々がこうも簡単に倒されてしまうのも理解できます。キースさんが勝てないはずです。あなたなら私のことも簡単に捻り潰せるでしょう。」


 ですが、


「この灰色の空間、狭間のダンジョンは私のスキルで作りだしたものです。入り口も出口も存在しません。例え私を殺したとしても、外に出ることは叶わないでしょう。」



 はぁ、なんかいっぱい喋るな。こいつ。


 うん?

 今、ダンジョンって言ったよね?


 会話をしたくないが、必要なことだと割り切って聞き返す。



「ここは本当にダンジョンなのか?」


「ええ、そうですよ。」

 


 じゃあいい機会だし、試してみるか。


 左手をポケットにスッと入れ、

 何とかなるカードをギュッと掴む。


 心で唱える言葉はもちろん、


 なんとかなる!

 なんとかなる!

 なんとかなる!



 途端に握るカードが熱くなり、そうじの体が淡く光る。

 浮遊状態が解除され、そのまま着地。普通に歩き動けるようになる。


 おお、なんとかなった!。やったぜ!

 喜ぶそうじと対照的に、苦虫を嚙み潰したような顔になる糸目男。



「拘束された振りをして、騙していたんですね、私を…。」



 いや、騙してないんだけど。

 何か行き違いがあるようだが、まぁいいや。

 

 それを訂正するような仲でもないし。

 

 喋るつもりも無かったが、頭に流れ着いた言葉が、パッと口を突いて出る。



「騙して来たものが騙されて終わる。殺してきたものが殺されて終わる。当然の結末。」



 なぜ、この言葉を口にしたのか、自分でも分からない。

 ただ、糸目男は、赤いオーラを霧散させ、膝から崩れ落ちた。

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