分身の術。

 深夜。

 丑三つ時に差し掛かろうとした頃、部屋の中で物音。


 空き缶が倒れる音。

 何かを引っかく音。


 ガサガサ、ガサガサ。

 カリカリカリ、カリカリカリ。 


 音に引かれて離れていた意識が体に戻る。


 なんだろう。またハマチかな?それとも別の子かな?


 家の中を野良猫が、我が世の春を謳歌する如く、居座り寛いでいるのはいつものことなので驚きはしないが、こんな真夜中に入ってくるのは珍しい。


 鳴り続ける引っかく音。


 カリカリカリ、カリカリカリ。


 さすがに気になったので布団から立ち上がり、明かりをつける。


 

 うん?


 タマ?


 壁に立て掛けてあったリュックをタマが両手で引っかいていた。


 今まで一度もタマが悪戯をした所を見たことがなかったので、きっとリュックに何かあるんだろう。


 リュックを手に取り、机の上に置く。

 タマも机の上に乗って来てリュックをじっと見ている。


 こんなことするのも初めてだ。

 普段机の上に乗らないのに。


 タマの猫らしい新たな一面を見ることが出来て喜びながら、何かあるであろうリュックを開け、入れっぱなしにしてあった物を取り出していく。


 とろけるお肉を取り出したら猛烈な反応を示すタマ。

 ハッピー、ハッピー、ハッピーと机の上を飛び跳ねるながら目を輝かせている。


 あまりにも嬉しそうだったので、ラップを剝がしテキトウな皿の上に乗せ、タマの前に置く。


 勢い良く食べ始めるタマ。

 ガツガツと美味しそうに食べている。


 タマは可愛いなぁ、うっとりしながら眺めていると太腿を叩かれる。

 

 下を見るとちょっと呆れた感じでこちらを見つめるタマ。




 うん?



 視線を机に戻すと、お肉を食べているタマ。

    下に向けると呆れた表情のタマ。


 

 思考が追い付かない。


 もう一度机を見て、………タマ。

 下を見て、………タマ。



 増えてる。


 Why?



 問いかけるも、脳内の円卓会議で答えを出せるそうじは、誰一人としていなかった。

 

 迷宮入りしてしまうと、会議参加者に給料が支払われないので強引に議決。



 回答発布。



 タマが分身の術を使った。

 これでいこう。


 しかし下にいるタマにさっきより太腿を強めに叩かれる。


 ちょっと痛い。

 間違っていたらしい。


 そうこう考えている内に、机の上のタマが食べ終わり、目を輝かせてこちらを見ている。 

 「ぎゅあ!、ぎゅあ!。」


 机の上のタマが何かを伝えたいのか声を上げている。


 ぎゅあ!、ぎゅあ!、 ? なんだか独特の鳴き声だ。

 

 猫ってこんな鳴き声も出せるんだ、と関心していると目の前にウインドウが現れる。




 タマ? が なかまに なりたそうに こちらをみている。


 なかまに してあげますか ?


 ▽はい  いいえ


 

 

 まぁ、猫が増えるに越したことはないよなぁ。


 迷わず はい を押すと、どこかで聞いたような曲が景気良く鳴り響き、追加のウインドウ。





 タマ? が なかまに なった!




 よし!仲間がふえたね!

 やったね。


 タマ?をこれから何て呼ぼうかと考えていると、ボワン!と聞こえそうな煙に包まれる。

 数秒後、煙がはれると、中からカボチャのお化け?が現れて、自分に向かって突っ込んできた。

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