第2話 お前が俺で、俺がお前で

まあまずは状況を整理しようじゃないか諸君。

俺は昨日わびのさびの配信を見終わった後すぐに眠りについた。

んで起きたと思ったらこのザマだ。

一体全体何がどうなってんだかわかんねえなオイ。


「しっかしこいつ誰なんだ…?聞き覚えのある声はしてんだよな…」


目の前に映る自分(女の姿)を見ながら1人愚痴っていると


「あっやっべ!会社に連絡してねえ!!!」


今の自分の状況よりも会社に無断欠勤の方がやべえ!と慌ててスマホを探すことになった。

この体の持ち主はスマホを決まったところに置かねえのか?

まあ俺もそうだけどさ。

10分ほど探してベッドの下にスマホを見つけてさあ会社に連絡だと思ったら


「まあそりゃそうだわな、ロック画面あるわな」


このままじゃ会社に連絡できなくね?マジやばくね?と焦っていると

いきなりロック画面がアンロックされた。


「え…?なんで…あっ、こいつ指紋認証か!でかしたぞ!」


そのまま会社に連絡しよ…うとしたけど、けどさ


「これ俺なんて名乗れば…ああもう時間ねえや!妹って設定でいいや!」


と半ば投げやり気味に会社に連絡を取り、今日は今流行りのインフルエンザーウイルスにかかったんでお兄ちゃんにおやすみくだせいって言ったらなんか許してもらえた。

俺がマジで風邪引いた時は来いっつってたくせによ、結局世の中顔か?…いやこの場合声か。


「しかし…顔はいいな、この女」


と自分の顔(?)を眺めていると


「……!!!」


俺の体に"最悪な事態"が起こった、その最悪な事態とは…


「ト、トイレ行きてえ…!」


ってもうみんなわかってたろ?わかってなくてもなんと無く想像はついたろ?

まあ俺はこういう時に女の身体だからといってトイレに行くことを躊躇するような男じゃねえ。

自慢じゃねえが俺は学生の頃腹が痛くて男子トイレに入れなかった時こっそり女子トイレで用を足したことがある。

この身体の女には悪いが用は足させてもらうぜ!


「いや…すごいね…人体って…」


今この瞬間だけは神に感謝かもしれねえな、うん。

と、俺が人体の神秘に感動してると机の上に置いていたスマホが鳴り響いた。

スマホの画面を見てみるとそこには"俺の携帯番号"が書かれていた。

ほぼ反射でスマホを取り通話を始めると


「あの…えっと…す、すみません今大丈夫ですか…?」


と自分の声で聞こえてきた…気味が悪い。


「ええ、全然大丈夫ですよ、ちょっと今トイレ行ったくらいなので」


「えっ、い、いやあの、それ大丈夫じゃ、ない…」


と下手な漫才師よりも上手い漫才を繰り広げて数分後にお互いが自己紹介をした。


「えと…私の名前は鴨沢 優美(かもさわ ゆうび)です…よろしくお願いします…」


(おいおい、いきなりフルネームかよ…まあいいか、お互いの信頼関係は築いておきたいしな)


「あー…自分は大草 堂尾(おおくさ どうび)って言います」


………………


きっっまずーーーい!!!!

そりゃそうだ、今初めて名前知ったんだもん!気まずくもなるわ!


「えっと…鴨沢さん、ですよね?あの…あなたの会社の方にも連絡をしたいので電話番号とかって教えてもらったり…?」


鴨沢さんもきっと起きてから混乱しただろう、今すぐにでも連絡をしてなんとかしないとと俺が思っていると鴨沢さんが小さな声で


「え、あ、その…自分、あの…働いて、なくて…」


はいやらかしたー、地雷踏んだー。

でも思わんやん、まさか働いてないとは思わんやん、半端ないって鴨沢さん。

俺がなんとかして失態をカバーしようとしていると頭をフル回転してると


「あの…大草さん…ちょ、ちょっと宜しい、ですか、ね…?」


と鴨沢さんから声をかけられた。

なんだと思って話を聞くと、実は鴨沢さんは配信者らしく、今日の昼の12時から配信の予定を立てていたらしい、しかも運悪くコラボ配信とのことらしく断ることが難しいだとか。


「…もしかして俺に配信しろって言ってた、り…?」


「あ、あの、大草さんさえよ、よければなんですけど…」


配信活動なんてやったことないしそもそもコラボ相手の前でボロしか出さない気しかしねえしで悩んでいると鴨沢さんが


「む、無理なら大丈夫なんです、変なこと言ってご、ごめんなさい…」


とか弱く謝るではないか、男たるもの女を泣かせるなど言語道断!やるしかない!

…べ、別に配信してみたかったわけじゃないんだからね!勘違いしないでよね!


「…わっ…かりました、どこまでできるか分かりませんが全身全霊で頑張らせていただきたいです!」


と俺がやる気満々の声を出すと鴨沢さんが嬉しそうに


「ほ、ほんとですか!?ありがとうございます!」


と元気よさそうな声を出していた。

うんうん、やっぱり女は元気が一番だ。

声は俺だけど。


「……んぁ…えぅ…」


さあ配信準備のやり方を聞くかと鴨沢さんが何やら言い淀んでいた。


「あの…何か?」


と聞くと鴨沢さんは心底申し訳なさそうに


「えっと…実は、あの、私、その…ぶ、Vtuberやってて…」


…ん?Vtuber?…え"?


「え、Vtuberって…ま、マジですか?」


いきなりのカミングアウトに驚きながらもなんとか咀嚼しながら理解していこう。

一回クールにだ。


「は、はい…あ、でもそんな登録者さんが何万人もいるってわけでもなくて…」


鴨沢さん曰く大御所に所属しているわけでもない個人Vtuberらしい。

まあそれで緊張が消えるかと言われたら消えないんですけどね、びびりって?うるせえ。


「あー、な、るほど…分かりました、本当に自分で大丈夫ですかね?」


と何度も確認しながら結局Vtuberをすることになった俺は配信準備をしながら


「あ、そういえば鴨沢さんのチャンネルってなんてお名前なんですかね、配信場所がわからないんですけど」


とチャンネル名を聞いた俺は数秒後大後悔することになるんだとさ、え?なんでそんなことわかるかって?

ここでわからないようじゃ乙女ゲーのクリアは難しいぞ君たちぃ。


「あ、チャンネル名は"わびのさび"っていいます、ひらがなで、わびのさびです」


ほーらな?お約束ってヤツだよ

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