第120話 とある砦の攻防戦


 ――――自由都市周辺国連合のとある国、とある都市。


 郊外の小高い丘の上に構えた豪邸、周辺は厳戒態勢で固められ巡回の密度も高い。

 嗅覚に優れる犬系モンスターを従えて巡回するのはテイマーだろうか、見上げれば旋回している鳥類も一羽二羽の話ではなく統制された動きは密な監視網を物語っている。

 邸宅自体も造りは堅牢、設計も有事を想定し籠城や防衛に優れたものになっていて砦と言っても過言ではない。


 その最奥、広めに取られた司令室の脇に位置する応接室の様な部屋に俺ちゃん達は居た。

 隣の司令室では周辺警戒に関する指示が飛び、様々な情報が読み上げられ確認されている。


「まずは防衛評価を下しますが、“まずまず”もしくは“そこそこ”と評します。上空の警戒がテイマー頼りの飛行生物なのはいいのですが、交代周期に問題があります。幻惑系魔法を掛けられて違和感を察知出来なかった場合に時間的に大きな穴となります。」


 ザッキーが淡々とレポートを読み上げる。


「地上も体制に概ね問題は無いのだが……運用に難アリだな。どうして報復を恐れてガチガチの防衛網を敷いてるのに食材で輸送時に要冷蔵なナマモノなんて注文したんだ?搬入時に“冷却に必要な魔道具です”って結構な大型魔道具が大した検査もなくスルーされてたぞ……珍しさで目を引いてたから、隙をついての潜入するにしても難易度ダダ下がりだったしなwww」


 パイセンによるツッコミも鋭い。


「邸内の体制にも若干難アリと言えるな、外部巡回ありきで緊張感が足りない。外部からのアラートで火が点くのは当然だが、常に外部からの情報も疑う位でないと最終防衛ラインとして機能しない。一部外注に出してるなら尚更だ。」


 中佐による捕捉だ。


 俺ちゃん達の評価に耳を傾けるのは部屋の隅に転がっている拘束された5人組だ。

 簡易拘束具もバージョンアップしていて手錠足錠に加えて首錠と頭錠がセットになっており、必要に応じて猿轡・目隠し・耳栓が強制セットされる様になっている。

 これにより必要に応じた拘束方法の選択が可能になり、対応プレイの幅が広がった。

 現時点では耳だけがフリーになってる状態でウーウー言っている。


 5名様はいずれも五害老の筆頭?首席?な秘書さん?なんかそんな感じの連中だ。

 覚えていますか?五害老、自由都市周辺国連合議会の古参議員、そして自由都市の禁制薬物密輸に関する黒幕……と思いきや列強諸国の傀儡になってた国に空気入れられてた売国奴の権力者達の末路なのである(ヤヤコシヤ〜)


 そう、俺ちゃん達は相変わらず謎()の組織に命を狙われていてカウンターを掛けたら首謀者はコイツらだったってオチなのだ。

 諸外国の後ろ盾も支援も期待できなくなってるのに勤勉な連中ヤツラダナーw


 ちなみに今回の潜入は地下からだ。

 重力のくびきから逃れられない俺ちゃん達は重力下での技術発展と軍備増強に努めた。

 そもそも物理法則が違う中での再現になるので様々な障害があったのだが宇宙開拓軍の基本的な組織図は以下の通りだ。


 本部(方針・意思決定部門)

 技術開発部(生産・技術開発全般)

 6軍(宙軍・空軍・陸軍・地下軍・海軍・深海軍)


 本部≒技術開発部>6軍、だと思ってくれて問題は無い。

 開拓する対象となる惑星は必ずしも1Gでは無い為、各軍の重要度には差は無いのである。


 無振動地下採掘技術再現の成功に後押しされた地下軍によるファーストターゲットは地下食糧庫、そこからの第1征圧区域はキッチンだった。

 

 “どんなに鉄壁を誇る防衛施設であってもキッチンさえ制圧されれば終わりだ……逆に言えばキッチンが一番ヤバい、往々にして最大戦力がそこに居る。居なければその時点でヌルゲーだ。”


 潜入に一家言あるパイセンの言葉だ。


 “補足するならばコックには最大限警戒、そして最大限敬意を表する。それが潜入のルールだ。”


 言葉を継いだ中佐と視線を合わせて無言で頷き合うパイセン。

 二人のプロフェッショナルが異口同音で唱える原則だ、恐らくある種の真理なのだろう。


 キッチンから料理(と俺ちゃん達)を乗せたワゴンが難なく応接室に入ると音もなく制圧が完了してしまった。




 いいのか?コレでw



 

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