第109話 自由都市の選択肢


「まず最初に、基本的にどの様な組織形態を敷いたとしても規則ルール審判ジャッジを流動的に人間が担っていては腐敗の方向にしか進みません。原則や理念が現実にそぐわないなら土台から作り直すべきなんです。その場しのぎの解釈や例外的措置は禍根を残して腐敗の温床になるだけです。その時の最適解を前例にするくらいなら判断を凍結して仕組み自体を作り変えるべきなんです。起きている問題を議論するのでは無く起こり得る問題を議論するのが本来の議会であり立法府なのです」


 参考人として招かれた中佐が壇上から淡々と語る。


「立法における規則ルールは作るものではなくて前提となる理念に基づいて矛盾しない様に組み上げられるものなのです。司法とは規則ルールに沿って行われるもので法を独自解釈する学術的な場ではないのです。飽くまでも事実の調査・探求に瑕疵が無かったか、事実の隠蔽等が無かったかの検分に過ぎず判断基準は担当者によって変わりうるものでは無いのです」


 事の起こりは……まぁ、連日の飲み会からだったんだ。

 偶にはガス抜きも必要だろうと海賊達に拉致られた本部の方々、揃って目の下にクマ作ってゾンビみたいな状態だった。

 冒険者ギルド及び自由都市の運営の立て直しとか、まー大変だろーなーとは思う。

 飲んでないで寝たほうがいいんじゃないかとも思ったんだが「溜まった仕事がチラついて早く帰っても寝れないんです……せめて飲んで忘れて寝てしまった方がまだマシなんじゃないかと思いまして」だってさ。

 飲んで暫くすると少しずつタガが外れてきたのか仕事の話であーでもないこーでもないとか始まる始末、おまいら忘れるために酒入れてるんじゃないのかよw

 そのうち絡み酒って程でもないんだが「ね、どう思います?」って話題を振られて一問一答で答えていく内に、どんどん踏み入った話になってきて……疲れとストレスとアルコールで少々ヒートアップしそうになったから日を改めて話し合いの席を設ける事になった。

 

 正直な話、飲みながら仕事の話をするのはオススメしない。

 幾つかの前提をクリアしないと不毛な言い争いにしかならない危険性があるからだ、政治と宗教と野球の話はするなってのもほぼほぼ同じ理由だ。

 まず大前提で最低限の偏ってない知識をお互いが持ち合わせていること、相手の話を遮らないこと、相手の話を否定せずに聞くこと、相手を説得しようとしないこと、これらのスタンスをアルコールが入ってもキープ出来るのならば有意義な意見交換が出来るだろう。

 ただ難しいよ?飲んでなくても人の話を聞くことが出来ない、聞いてるふうで全然理解しようとしてない、そもそも理解する脳力が無い御仁など掃いて捨てる程いるのだ。

 美味しく飲む話題チョイスの秘訣は唯一つ、相手と自分の共通する好みの話題を探る事だ。

 共通する好みのものをお互い別々の視点から掘り下げる様な話題は上級な肴になること請け合いである。


 話を戻そう、自由都市は冒険者ギルドと商人ギルドの上層部による合議制で長らく運営してきた。

 結局は腐敗により崩壊したのだが、それでも上手く回っていた時期もあり何とか健全な合議制運営に戻れないかと模索していた様だ。

 どうやら周辺国の連合議会制に倣った形であり、足並みを揃える為に合議制を導入したのが事の始まりらしい。

 

 ぶっちゃけ議会制に夢見過ぎなのだ。


 連合議会だって半数は今回の汚職に関わってる有り様だし、有事には結局宗主国の介入がなければ重大な案件の前に足踏みするザマなのだ。

 何かを行うには必ずそれを支える技術的根拠が無ければ机上の空論に過ぎないのだ。

 例えば戸籍管理が可能なデータ管理技術が無ければ選挙など公正を保てないし、ネット環境が整って無ければリモート会議など出来ないのだ。


 その辺の合議制・議会制のダメ出しを中佐は懇々と語っているのだ。

 元首が聡明であれば即断即決が出来る独裁制は最も優れた制度になりうる、但し一度腐敗に傾くと加速度的に劣化する制度でもある。

 議会制は少々オツムに問題がある議員が混ざっていても時間を掛けて議論するので即効性は低くとも選択を誤る可能性は低くなる、但し放っておけばゆっくりと確実に腐敗に傾いていく制度でもある。

 どちらにしろ技術が発展して実現が可能になる次世代の政治制度を迎えるまでの時間稼ぎにしか過ぎないのだ。


 何も政治に限った事では無い、例えば道路を作っても確実に劣化していく。

 適切にメンテナンスする技術があれば長持ちもしよう、なんなら技術開発が進んでより快適な道路に置き換わる未来まで見えるだろう。

 メンテナンスする技術も無いくせに立派な道路を何かの間違いで敷けたとしたら、只々劣化してくだけで道路として成り立たなくなり挙げ句無駄なスペースになるだけなのだ。


 で、なんで中佐かと言うとパイセンの代理いけにえだ。

 俺ちゃんはギルドでパイセン道場の案内とか南支部での聞き取りで対応したし、ザッキーは連合軍相手に対応したんで「次はパイセンでしょ?」ってなったのだ。

 そう、基本的に俺ちゃん達はシャイボーイなのだ。

 そしたらパイセンの奴「草生やしていいならやるぞwww」とか言いやがんのw

 まぁ、そんなワケで中佐にお鉢が回ったのだ、良かったな演説スキル持ちの佐官がサポート役で。


「よって進退きわまる緊急時だと言うのならば期間限定で強権を発動して立て直す方が現実的なのです。但し、期限を順守出来なければ間違いなく今よりも悪い形で組織が崩壊する事を肝に銘じて下さい。進まない議題を前に議論という自己満足で時間を潰してる間に、周辺国から自治権を削り取られて規模を縮小していくのも一つの道でしょう……私からは以上です」




 そしてどうゆうワケか議事録の写しが「組織運営の心得」みたいな虎の巻的な扱いを受けて話が大事になってしまうのである。



 

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