第108話 エンペラーとの遭遇


「エンペラーの先触れ?」


「正確にはビッグエンペラだ、アンタ達には是非とも参加して欲しい。勿論報酬も弾む」


 毎晩の様に俺ちゃん達を連れ回してくれてた海賊の頼みだ。

 夕陽の残光で仄明るい、夜も浅い時間だが本日はビアバーで白身魚のフリットを肴に楽しんでた処に南支部の伝令っぽいのがやって来て耳打ちしていた。

 どうやら魔物、それもエンペラー級の発生が予想される様だ。


「そうと決まれば勝負は夜明け前までだ、今から乗り込んで船内で仮眠するのが一番取りこぼしが無い……イケるかい?」


 海の男の顔で聞いてくる海賊。


「得物は何か特別なのが準備が必要なん?」


 海の魔物は陸とは少々事情が異なる、相応の準備が必要となるのだ。

 例えばもりを射出するハープーンや逃げ場を限定させる巻き網などが一般的だ。

 それらにはファンタジーならではの雷系エンチャントされてたりする。

 特定の大型種にのみ有効な戦法、例えばシーサーペントなんかは度数の強い酒を詰めた樽を丸呑みさせて狩るなんて話もある。

 まぁ、ウチの場合は横綱の咆哮で一撃だったワケだが……


「任せろ、職人魂のこもった一級品を揃えているぜ」


 景気づけに一息であおったジョッキをテーブルに荒々しく叩きつけると颯爽と席を立つ海賊。


「行くぜ、海が呼んでいる」


 ヤダ、ちょっとカッコイイw



 

 港に着くと宛ら戦場の如く慌ただしく準備が進められていた。


「アンタ達も手を貸してくれるのか?そいつは頼もしいな」

 

 にこやかに話しかけてくる色黒スキンヘッドの海賊、確かサブマスだったかな?

 準備に追われてるのか挨拶だけで早々に去っていった。

 ザッキーは万一の備えとして上空に飛空船団を配置、海賊船団を追尾してフォロー出来るように準備。

 パイセンはM870に一粒スラグ弾をチョイス、恐らくは雷系のエンチャントがされてると読んだ。

 俺ちゃんも念の為に愛銃ハンターの状態をチェックする。

 水中ではかなり減衰するが備えあれば憂いなし、空中を飛来してくる海洋種だっているのだ。

 それに実は最近になって弾丸を僅かながらも加速させる技術が確立したのだ。


 キーになったのがサエキリフレクターだ、長い事謎だった仕組みが漸く解析されたのだ。

 簡単に言うと空間跳躍ゲートを作り出す超能力だったのだが、その仕組みとゆーか運用が少しややこしい。

 最初聞いた時は俺ちゃんも矛盾を感じたんだが「ゲートの入口と出口を同方向に重ねて設置する」のがサエキリフレクターの正体だったのだ。

 それって通過中の物体が干渉しあって㌧でも無い事にならなくね?ワンチャン分子とか原子とかが重なり合って核融合とか起きかねなくね?とか思うワケなんですよ。

 それがネックで起こり得ない現象として除外してたから解析も遅れたんだとか。

 そんな中、アンカー技術の応用研究をしてると「あれ?この空間干渉で発生してる現象の観測値ってリフレクターと類似してなくね?」となって改めて深堀りしたら解明してしまったそーな。

 なんでも量子物理学における観察者効果?とやらでゲートを出入りするモノを意図的に選別しているらしい、超心理学である超能力を量子物理学の理論で運用してるとか謎過ぎて理解出来ませんよアハハンw

 そんでもってゲートを通過する事で発生した矛盾をトリガーに空間が元に戻ろうとして発生する力とゆーか空間のウネリが吹き飛ばし攻撃になってるんだってさ。

 ゲートが元に戻る時に勢いよく押し出されるってのがミソなのだ、つまりゲートを通過する程加速するのだ。

 現時点では俺ちゃん自身もリフレクターは一対しか作れないが魔道具化する事で複数を並べた直列加速ゲートとかが可能になるんだそーな。

 更にはリフレクターとゆーかゲートを応用して空を飛ぶことも出来るようになったのだが、それは又今度説明しよう。


 日も沈み、夜の帳が下りるが魔道具で煌々と照らされた港からは準備が整った船から順次出港している。

 士気が高いのか戦いの前なのに随分と活気に溢れた様子だ。

 沖に出ると操船する者と輪番の見張り以外は暫しの休息を取る、浅い眠りの中で騒がしくなる気配に覚醒していく。

 どうやらポイントに到着した様だ。




 ビッグエンペラ

 クラーケンの眷属、群れで行動する習性があり数を生かした捕食を行う。

 足を除いた胴体に見える部分の長さが約30cm、その両側を半分以上に渡る大きなエンペラが特徴。

 旬には一定以上の漁獲量が期待できる為、比較的安価に供給されるが非常に美味。

 初物は縁起が良いとされて産地では総出で漁に出る。




 はい、イカ漁ですね……エンペラー級モンスターちゃうんかーい!

 確かにビッグって言ってたみたいやけどさorz

 そして俺ちゃん達の手には職人が丹精込めて作った特別な釣り竿エモノが貸与されてる。

 針も返しのエグいイカ用の掛け針だ、曰く初物で群れの規模も大きく素人でも入れ喰いだそうだ。


 ……ええ、釣りましたとも。お陰様で大漁だったしな!


 初物の一本釣りは特に縁起物らしく重宝されるとの事、通常は網で一網打尽らしい。

 なんでもビッグエンペラと米を炊き込んだ料理がこの時期の御馳走なんだとか。

 生食とかシンプルに焼いたりとかはしないらしい。

 てやんでぃ!こちとら転生者じゃい!黙ってられるか!


「ヘイ!ライデン!七輪カモン!」


「ゴワス!」


 俺ちゃんのコールに横綱がすかさず応えてくれる、マジで高性能w

 パイセンは日本酒を、ザッキーは醤油を、中佐は食器を準備、地味子は生姜をすりおろしてくれている。


「いいかギルマス?確かに手の込んだ料理もいい。だが新鮮な食材はシンプルな料理も楽しまなきゃバチが当たる。本当なら刺し身と行きたいところだが初心者にはハードル高いし、寄生虫のチェックやらで手間だから今回は焼きを堪能してもらう」


 ズビシと人差し指の指紋を見せつけながら立ててご提案だ。


「確かに取れたては焼いただけでも美味いっちゃあ美味いが塩味だけだと飽きないか?」


 やや不満げな海賊、だがこちらも少々不満があるのだ。

 香辛料スパイス中心の食文化を誇る自由都市、それはそれでいいのだが醤油が無いのだ。

 探せばあるのかも知れないが、調味料イコール香辛料ってゆー常識と交易品としての香辛料がメジャー過ぎて醤油の存在が見落とされてるのだろう。


「まあ、騙されたと思って騙されてくれ」


「結局騙されるのかよ!」


 海賊のツッコミを華麗にスルーして小皿に醤油とおろし生姜を準備する。

 醤油を塗りながら焼くのも定番だが、今回は敢えてそのまま七輪にかけて火を通すに留める。

 流石の横綱、見事な焼き加減、ホント高性能よなw

 切り分けたイカは中まで火が通っているが断面は艷やかに光っている。

 コイツを日本酒でヤルのが最高なんですよ……ああ、柔らかくも噛みしめれば旨味のエキスが口内に拡がる……

 冷めやらぬエクスタシーにお猪口でクイッと一口、ちょいと辛口なのがオススメだね。


 放置プレイを食らった海賊も恐る恐る醤油につけて口に運ぶと暫しフリーズした。


「ただ焼いただけなのに……この醤油ってヤツの仕業か?チクショウ、何か騙された気分だ!」


 再起動すると何か言ってきたw


「酒にも合うぜ?ラムとは違う米の醸造酒だ」


 イカと日本酒のマリアージュに唸る海賊、どうやらどハマリしそうな御様子。

 特徴的なエンペラもコリコリしてて美味よなw


「おろし生姜だけってのも俺は好きだね、むしろソレが一番美味いまである」


 嘘だろ?みたいな顔した後に意を決して生姜オンリーを試す海賊、次の再起動にはどれくらいかかるかな?w

 そう、日本酒を中心に添えると肴はシンプルな方がむしろ良くなってくる場合もあるのだ。


 


 肴は炙ったイカがいい、お酒は徳利冷や酒で。

 お猪口の蛇の目を睨みつつ、飲むのがイッツマイフェイバリットスタイル♪



 

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