第106話 お届け物デース


 東西二方面から挟撃を図っていた連合軍部隊は新兵器「試作型広域無力化装置」によって順次征圧された。

 つーかザッキーが本気出しすぎておりますw


「プロジェクトT実証機試験導入でしたが申し分の無い成果を得られました、飛空船からの重量物投下データも欲しかったんですよね。突発事故アクシデントに備えた戦闘用ゴーレムの配備も欠かすつもりはありませんが、無力化後の捕縛・制圧作業は自律作業機体アンドレイバーでも十分ですね……いや、むしろ自律作業機体アンドレイバーに武装ユニットを装備させた方がコスパもいいのでは……これは要検討事項ですね♪」


 なにやらインスピレーションがほとばしってテンションがアッパーでノリノリである。

 そして夜明けを待たずに連合議会の老害問題児筆頭の5名を拉致って来た。

 こちらも試験導入とやらで簡易光学迷彩を施した飛空船から懸垂降下させたメタル・モンキーと飛行系インセクトの混成部隊で一人目の屋敷に潜入・拉致、撤収後に問題なしと判断したらしく今度は並行して同時に四人釣り上げてた。

 試作品の狙撃銃スナイパーライフルでサポートに入ってたパイセンは「隠密行動に問題なさ過ぎて狙撃の実地訓練が出来なかった」とボヤいていた。

 ちなみに拉致って来た5人は簡易拘束具で自由を奪い床に転がしてある。

 この簡易拘束具は手錠と足錠を組み合わせたもので自由度が高く、遠隔操作で即座に後ろ手からM字開脚まで拘束形態を変える事が出来るスグレモノだ。




 ――――――――




 夜が明ける頃には自由都市の中央地区は4支部の手によって陥落していた。

 夜討ち朝駆けは戦の基本とは言えご苦労な事だ、まぁ何時までも街を封鎖しておく訳にも行かないから可及的速やかな最善の策だったのだろう。

 俺ちゃん達が開店休業中だった商店から台車を借りて意識不明のゴミをお届けする頃には、4支部長は本部の一角で指示を出しつつ情報整理をしていた。

 ウォークイン出来る場所だったので台車を引いたまま入ってく、下っ端ぽいのに止められそうになったけど俺ちゃん達の顔を知ってる人が慌ててソイツを止めていた。

 4支部長は揃いも揃って人相が悪い、どう見ても賊の類いにしか見えない。

 言うなれば南の海賊、北の山賊、東の盗賊、西の蛮族……西の族は一本角付きの赤いヘルメットしてるけど、その赤は返り血じゃないよな?


「ちゃーっす、ご注文の老害キッズ詰め合わせセットをお届けに上がりましたー♪」


 挨拶は元気よく、老舗の宇宙商会スリーリバーズに伝わる商売の基本だ。


「アンタら、早すぎないか?……いや、早くて問題は無いんだがな」


 海賊が少々呆れた感じで応対してくれた。


「ハヤイ、ウマイ、ヤスイ。コレに勝る美学はそうはありません!」


 そう、それは宇宙に誇る超人レスラーすらはぐくむメソッドなのだ。


「確かに突入前からの的確な情報供与、並びに容易ではない身柄確保に感謝する」


 礼儀正しく謝意を表する山賊、人間見た目じゃないって事だ。


 ザッキーが此処で降ろしていいかと確認を取ると、横綱が台車を傾けて老害キッズを床に転がす。


「間もなく意識が戻りますね」


 付けてないエア腕時計で時間を確認しながらザッキーが告げる。

 取り敢えず琴座立ちで後方待機かな、おや?パイセンも?おけおけ……って地味子と中佐もですかいw


 両手両足を拘束されてモゾモゾとイモムシみたいに蠢きながら覚醒しだすオールドキッズ。

 辺りを見回し薄っすらと状況を把握し始めるも拘束されてるのがお気に召さなかった様だ。


「貴様ら私を誰だと心得る!直ぐにこれを外さないか!只では置かないぞ!」


 居丈高にクレームを付けてくる。


 〈テローン♪お題「こいつは誰?」w〉


 〈誰もが保護者だと名乗りあげない、年の取り方を間違えた人生の迷子www〉


 パイセン、誰も保護出来ないヤツかw


 〈よく吠える動物〉


 中佐は辛辣だなぁw

 

 〈複数の人格障害の症状が確認できますね、普通ならここまで拗らせる前に自覚症状があるものなんですけど……〉


 地味子はもっと辛辣とゆーか冷静に診察してるしw


 〈おう、言い出しっぺ。模範解答ヨロwww〉


 うはwパイセンからのキラーパスw


 〈う〜ん……老guy?w〉


 〈くそwwwこんなんでwww〉


 〈なるほど〉


 〈勉強になります〉


 念話で御歓談してると迷子のクレームがヒートアップしてきた。


「我々は国を動かす選ばれた上級国民なのだ、有象無象の下民とは生命の価値が違うのだ。仮に捕虜だとしても丁重に扱わなければ国際問題になるのが分からんのか!」


 おうおう、吠えますなぁ……あ、拘束モードが後ろ手海老反りに変わったw

 そんでもって横綱がクレーンみたいに片手で持ち上げてる、へ〜拘束具ってそーゆー風に持てるのかw

 手荷物の様に吊り下げられて若干青ざめた疾患者、視線の高さが合ったザッキーが言い聞かせる様に応える。


「生命の価値が違う事を御存知とは随分と博識なんですねぇ。おっしゃる通り様々な価値観や考え方で評価するならば全人類が同規格のサイボーグでも無い限り全員が同価値にはなり得ませんからねぇ」


 思わぬ同意を得られた事に言葉に出来ずに頷く手荷物。


「そうなんですよ、自身の生命の価値を上げる事も人生には必要なんですよ。で、客観的に申し上げますと貴方が積み上げてきた生命の価値ってどう見積もってもマイナスかゼロ近辺なんですよ。もしかして希少な遺伝子をお持ちでしたらサンプルとしての価値が若干上がるかな?くらいですね」


 良いように扱き下ろされるもザッキーの視線に射貫かれ目を白黒させる萎びた海老。


「でも、それではあんまりなんで貴方達の引取り先に価値を見出して貰える様に提案しておきました。例のお薬なんですけど上手く調合したら麻酔に使えそうなんですよ、丁度よい被験体として医療の発展に貢献できそうで何よりですね。頑張って下さいね老guy(苦笑)」

 

 最後の苦笑は勿論アルカイックスマイルだ。




 あ〜、全部真打ちに持ってかれたわw



 

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