第104話 包囲網と逆侵攻と後悔


「どうやらご禁制の薬を密輸してたみたいですねぇ、海路で仕入れて陸路でバラ撒いてるみたいです」


 ギルマスの取調べ、とゆーか聞き取り中に静かだったザッキーはスパイダーネットで色々調べてた様だ。


香辛料スパイスの街で刺激的スパイシーなお薬ねぇ?交易の拠点だから色んなルートで売れちゃうワケね」


 当事者だったので一応別室で事情聴取を受けてたパイセン達も即時開放されて今は同じ部屋に足止めされている。

 シャーク団をはじめとしたお薬シンジケートと思しき場所、まずは停泊してる怪しい船と港に緊急ガサ入れするので機密保持の為にギルド内での待機をお願いされてしまったのだ。


「どこいらへんまで絡んでるのかねぇ?」

 

 少なくとも南支部はシロ、北支部も多分シロ、東西支部がグレーで本部と商人ギルドの上層部は真っ黒の様だ。


「周辺国は連合を組んでいて宗主国が強権を握ってる様ですね。その宗主国による取り決めで一律して禁制品目に指定されてますね……それらの国を潜り抜けて遠方まで売り抜けてるってのはまず無いでしょう」


 ザッキー先生が集約中のデータから考察していく。


「周辺国には虫が飛んでませんから要確認ですが自由都市では、そういった認識が一般的ですね……と、コレはマズい。」


 ザッキーが言葉を区切るのと同時にマップからアラートサインが点滅する。

 敵性反応を示す赤い光点が南支部を取り囲む様に迫って来ている。


「路地裏専門チンピラ団が東西から集合してますね。不定期臨検の体で出払ったギルドを襲撃、逮捕されてるシャーク団員の開放と合流、そして密輸船の戦力とハサミ打ちと言ったところでしょう」


 ザッキーの考察を聞き流しながらパイセンが部屋の前に詰めているギルド員に情報供与襲われそうだよ?している、訝しげながらも上に確認してくると去っていった…いいのか?軟禁体制w


 然程間を置かずスキンヘッドの海賊がやって来た、サブマスらしいけど南支部は海賊ギルドなのか?w

 ザッキーが秒で懐柔してたけどマジでコミュお化けよな(苦笑)


 第一報の情報料はサービスとして防衛戦力の加担は別料金ですよって話だったんだけど事前にギルマスから何かしら言われてたのか即断で防衛戦力に組み込まれた。 

 しかし主たる商材が情報で武力も持ち合わせてるS.P.F商会とか本腰入れて傭兵業に勤しんだらヤバい事になりそーよなw

 実際の組織図的には宇宙開拓軍購買部PXの下部組織にしか過ぎないんだけどねw

 

 建物の西側防衛ラインの一端を任されたのだが迎え撃つチンピラ達はイーグル団とかゆー破落戸ごろつき集団らしい、ちなみに東側を襲撃してくるのはパンサー団らしい。

 俺ちゃんが詩的に素敵に考察してる脇でパイセンがおもむろに新兵器を取り出す。

 ガンオイルの匂いも芳しい短機関銃サブマシンガン、クリスV45モデルだ。

 メカニカルな発射機構と低く設計された銃口はマズルジャンプを抑えて暴れがちな45口径弾の集弾を纏める理性ある暴力の体現だ。

 アサルトライフルやスナイパーライフルと言った長物は不思議物理法則の前では十全な威力が確保出来ないらしい。

 仮に魔術的なエンチャントで射程距離や威力を稼げたとしても魔力感知で着弾までに察知・対処される可能性が高く、実戦を想定すると長距離狙撃は威嚇にしかならないと予想されるので何らかの技術的ブレイクスルーが見つかるまで凍結されている。


 包囲網が狭まってくると新兵器による固定砲台になるかと思いきやスルリと抜け出して敵の裏を取り撹乱・制圧している……つまりやりたい砲台だw


 乾いた短機関銃の連射音スタッカートが響く戦場では予想外のカウンターに乱れた西側勢力……イーグル団?を呆気なく制圧すると戦場の亡霊ゴーストよろしくナチュラルに東側制圧にも加担していった。

 帰還したパイセンは軽い準備運動を済ませた様な顔で帰還してきた。

 低難易度のタワーディフェンスゲームかエクストリームスポーツを熟したかの様な涼しい顔だ。


 パイセンの号令で手早く捕縛を済ませると最低限の戦力を残して港に全軍進軍と相成った、何この戦場のカリスマ。

 サブマスも率先してパイセンのフォローに回ってるしw


 後に語り継がれる自由都市港湾攻防戦はパイセン率いる後詰め援軍により勝敗が決した。

 どう見ても狂信とか狂乱とかゆーレベルで暴れる敵軍に対して理性的な指揮で抑え込むギルド南支部、後の吟遊詩人の唄ではヤバいお薬をキメた狂人相手に善戦どころか凌駕した冒険者達、そしてそれらを率いたギルマスは英雄譚の一節として語り継がれる事になる。

 ただ戦場の空気を吸った者として言わせて貰うと、アレは薬ではなく何らかの強力なバフが掛かってたのではないかと思われる。

 現に密輸船団の旗艦が離脱すると見る見る脱力して行く様は何らかの魔法的作用が働いてたのではないかと推測される。

 ザッキー曰く、アレは魔法では無く特殊なスキル…例えばシミュレーションゲームの海洋バフの様なスキルではないか、との事だ。

 逃げた旗艦の追跡は東への航跡波を確認して打ち切られた、飛空船団は相互通信で機能するものであり単独行動には限界があり何よりも船団はザッキーの守護が至上命題だ。

 ドヤ顔で船団運用の柔軟性を謳っていたザッキーは即日、分断しても有用な船団運用の研究開発に取り掛かったのは言うまでもない。

 パイセンも追跡ビーコンを仕込んだ弾丸を撃てるスナイパーライフルの開発を申請していた。

 俺ちゃんも割り当てられてる開発リソースを超能力による飛行に全振りだ。



 

 人は体験と歴史から学ぶ生き物なのだ、そして体験に勝る教材は無いと言えるのかも知れない。



 

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