第三章 自由都市編

第101話 冒険者ギルド本部


 冒険者ギルド本部の所在地である自由都市フリーダは帝国から更に西方の海岸沿いに位置している。

 都市の起こりは有力な冒険者クランが協力しあい、どの国家にも属さない代わりに、どの国家にも中立を保つ事を条件に周辺国家から支援と存在意義の理解を得て、当時は政治的空白地帯だった土地を切り拓きフリーダの前身を築き上げた。

 そして何色にも染まらぬ無色の武力として雇用したり、あるいは有用なモンスタードロップを提供する取引先として関係強化を目論む商業ギルドのテコ入れもあり独立都市として栄えたのである。

 上空から見下ろせば弧を描く海岸線も相まって綺麗な円形の都市となっている。


「新型の飛空船も中々快適な乗り心地だったねぇ、結構な長距離だったのに気付けばご到着だったしw」


「しかも一台じゃなくて船団なのなwww」


「巨大飛空船ってのも惹かれましたけど船団ってのもロマンですよねぇ(苦笑)それに何より運用に柔軟性が出てきますからね」


「投下した通信用アンカーも調子良さげよなw」


浮標ブイ型アンカーまであるのなwwwそこから文字通りアンカーだして固定してるんだろ?www」


浮標ブイ型アンカーは今回試験導入ですね、移動式海洋プラットフォーム周辺に展開できれば色々と応用が利くんですよ」


 当初は無人飛空船を中継機として遠隔地とのスパイダーネットを繋ぐ素案があったのだが座標確保が悪天候時に不安定になりがちだったり万が一の自衛手段に不安要素があった為に要検討とされていた。

 しかしアンカー技術の応用により実現した半埋没式通信中継機は擬装効果も高く設置兼メンテナンス用ゴーレムや周辺探索用メタルシリーズをセットしたパッケージをパラシュート降下する事で指定範囲内の最も好条件な場所に設置する事が可能になった。

 周辺に地脈レイラインがあれば、より効率的に魔素を吸い上げる拠点としても運用が出来るスグレモノだ。


 自由都市フリーダには先行していたスパイダーネットコロニーが機能し生きていた。

 独立したコロニーでの自己増殖は微々たるものなのだが確実にテリトリーを拡げ、更には未回収損耗機ゼロと言う輝かしい戦果を挙げていた。

 血の通わぬ機械ではあるが忠実に任務を熟す様は健気にも映り、愛着さえ湧いてくるから不思議なものだ。

 そのうち本当に付喪神になりそうだw


 スパイダーネットから上がってきたデータによると都市の中心部に冒険者ギルド本部が存在して、その周辺に商人ギルド関連の建物が囲い込む様に乱立している。

 ギルド本部自体は実務は行っておらず都市外縁部、東西南北に支部を置いている。

 北支部は北方に拡がる大森林でのモンスターハントを、東西支部は各々の街道警備を、南支部は海運護衛をメインにしている。

 都市の運営形態としては有力者による合議制、すなわち冒険者ギルド上層部と商人ギルド上層部による共同支配でなされている。

 実務を各支部に移して場所的に余裕のあり、また都市の起こりとして名目上の盟主である冒険者ギルド本部にて定期的に会合している。


 定期会合では帝国支部の事も議題に挙がっていたがどうにも芳しくない。

 そもそも距離的にも数ヶ国挟んだ遠方に位置しており運営に関しても現地の有力商会に取り込まれていて至って不透明、歴史的に誘致を受けた経緯もあるが帝国と言う国家からでは無く現地の有力商会からであり、近年では輸送・通信コストを理由に独立採算制を強く主張し、なし崩し的に制度移行と言う有り様である。

 謂わば名前だけ貸してる別会社の様な感覚なのである。

 実際にズニノール領まで態々わざわざ訪れた調査員も明らかな不正の証拠を掴みつつも、ノコノコと帝都支部まで顔を出そうものならどの様な扱いを受けるか分からないと言う身の危険を感じたので早々に本部に帰還したそうだ。




「どうも、元F級冒険者のタローとハナコです」


 頭の痛い問題の渦中の人間が、まさかの来訪である。

 遠方故に、更には退会して一般人となったが故に、おいそれと召集も出来なかった人間の登場なのだ。

 若干の混乱を経て、それなりに偉い人との面談と相成ったのである。


「本部調査室長のサチョーです、この度は遠方からのご来訪とご協力に感謝致します」


 どこぞの兼任業務部長に爪の垢でも煎じて飲ませたい礼儀正しさだ。


「そしてギルドの対応が遅々として進んでない現状、誠に申し訳ない」


 挨拶に続けて深く頭を下げる調査室長、声色や表情からもポーズではなく本気で謝罪している様だ。


「頭を上げて下さい、確かに明確な瑕疵に欠落した自浄能力と麻痺した価値観による犯罪行為には閉口しております。更には対応も遅いと言うレベルを超えて黙って無かった事にしようとしてるとも取れる現状にも、ですね。しかし本部さんの手に余る案件なのではないかとも薄々感じております」


「傘下組織の不手際ですので最終的には我々の責任なのです、お察し頂き有り難いのですが本当に申し訳ない」


 再び深く頭を下げる調査室長、誠実な人っぽいですなぁ。

 更に室長は言葉を続ける。


「ご存知の通り冒険者ギルドは武力を中心として商売にしておりまして……対象も同じギルド故に相応の武力を抱えており、遠隔地での実力行使は大規模遠征と言う形を取らざるを得ません。実現には様々な障害があり中でも通過国からの承認を得る事が難しいのです。仮に小分けにして送り込んだとしても統制が難しくなり、どちらにせよ集合する帝国からの理解を得るのも難しいのです。更には招集により手薄になる地域への人的金銭的補填、該当期間の安全確保等を考慮すると遠征は現実的ではないのです。帝国に協力要請するのが一番現実的なのですが、腐っても国家に依存しない独立団体なので現地官憲の手をおいそれと借りる訳にも行かないのです……以上が現時点で我々が手をこまねいている理由となります」


 説明しても状況が好転する訳でも増してや解決する訳でもないのだが、それでも説明の責任はあるのだと申し訳無さそうに室長は語る。

 多分どっかの部長は出来ない理由を説明すればそれで仕事は終わりとばかりに話を切り上げようとするんだろうなぁ……


「そうですか……それではご紹介しましょうか?現地での武力団体。決裁権のある方を寄越してくれれば交渉内容如何いかんでは即日動いてくれますよ」


 俺ちゃんの言葉に「そんな都合の良い相手が存在するのか?」とポカン顔の室長。

 あるんですよね、ご都合主義万歳なのですよw




 ボッタクー商会後援パイセン道場の皆さん、実戦のお時間ですよ!




  

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