第97話 午前仕舞い


 こちらの多忙を見抜いてか、昼餐の誘いを辞して去る少尉達を見送る。

 簡素ではあるが決して無礼ではない立ち振る舞い方は独自の文化で育まれた礼法なのであろう。


「ゲールよ、何と見る?」


 傍に控える右腕に問う。


「彼の者達が帝国の敵に回らない事を只管ひたすら願うのみ、ですな。横に控えていた女性も恐ろしい手練れでしたが、シーナット公爵麾下の暗部を追い詰めるのにも二人ほど協力して頂きまして…そちらも配置に掛かった暗部の猛者を赤子扱いだったと報告を受けております」


「粒ぞろいと言うわけか…」


 思い起こせば御前試合での闘いは激しくも、それでいて何処か余裕も見て取れた。


「されど武力を誇る事無く、技術とそれを支える思想を誇るか…彼等の技術とはそれ程高いのか?」


「手段を選ばなければ一夜で帝都を落とせるとか…それを可能にするのは単純な武力では無く総合的な技術力だ、と申しておりました」


「大きく出たな…しかしブラフでもあるまい。武功に対し褒美などと上からの物言いをしなかったのは正解だった様だな」


「それで気を悪くするほど狭量ではないでしょうが…間違いなく判断力を一段低く見られていたでしょう」


「うむ、余は天に恥ずる事無く彼等の様な者と肩を並べたい。彼等の望みが共存ならば今後に交流をも図れよう、おもねらず学び精進せねばなるまいな」


「御意」




 ――――――――




 昼餐の誘いを受けたけど辞去させてもらった、あーゆー人達は予定に無い事をする時間の捻出は大層難儀する筈なのだ。

 俺ちゃん達との会見も随分と無茶したんじゃないかなー?ただでさえ重臣とその派閥連中の一斉検挙の後始末でテンヤワンヤの状況下なのだ。

 普通なら最低でも内務卿や近衛の偉い人とかも立ち会うのだろうけどね、大変そうだねぇ。

 こっちも偉い人の会見で肩が凝ってしまったけどねんw

 もー、昼から飲んでしまおうか…昼日中から飲む酒は何とも言えない罪悪感を感じるから普段はやらないんだけど、今日は朝から色々頑張ったから店仕舞い!

 取り敢えずランチには軽めのエールを…いや待てよ、パスタならワインでもいいよな?昼のメニューに合わせて乾杯しまっしょい♪


 〈ザザッ…こちらサエキさん、只今より緊急ミッションに入る。作戦名コードネーム「美味しいランチで一杯やろうず」総員参加を望む〉


 〈うっはwwwいいね、作戦展開地域の詳細求む!www〉


 〈会見は終わったんですね(苦笑)実はラム肉が美味しいと言う店が気になってるんですけど場所が決まってなければどうです?〉


 〈採用!w〉


 〈もしかして市場に近いバルか?看板がジョッキの形した所?そこならヤスがオススメだって言ってたぞ?www〉


 〈そこですねぇ、何でも軽めのエールがラムチョップによく合うとか…楽しみですねぇ〉




 結局、道場に居たパイセン門下生も含めたそこそこの大所帯で昼から飲む事になってしまった。


「このしっかりした赤身肉がタマラン、独特の香りも酒が進むよなーw」


「ガキの頃はちょっと苦手だったけど不思議なもんで何時の間にか乙に感じる様になっちまったわwww」


「前評判通り軽めのエールが良く合いますね、スイスイ入ってしまいます(苦笑)」


「ラムチョップと言えばエジプト屋でも偶に出してたんだけど、そん時に大将がさーw」


「出ました噂のエジプト屋www」


「本当に話題の尽きないお店ですねぇ(苦笑)」


「ラムチョップ焼きながらシミジミと言うのよ、「俺も若かりし頃、一時いっとき本気で語尾がだっちゃの虎縞ビキニの嫁を探してた」ってw」


「www」


「(苦笑)」


「そのクセ奥さん超美人なんだぜ?ヒヨコのエプロンが似合う黒髪ロングのw」


「何そのラブコメ野郎www」


「世の中にはいるもんなんですねぇ(苦笑)」


「奥さん目当ての常連客も結構いたらしいw」


「サエキさんはどうだったの?www」


「そうですよ、そんだけ話題に出るって事は結構通ってたんじゃないんですか?(苦笑)」


「あー、美人さんではあるけど眼鏡かけてなかったしなー…普通に安くて美味かったから通ってた感が強いわw」


「しまった、そういう奴だったwww」


「本当にガチの本物なんですねぇ(苦笑)」




 よく分からない理解のされ方をしたけど…ま、肉も酒もツマミも美味かったので良しとしよう。

 所謂いわゆる当たりの店ってヤツだ、気の合う連中との新規開拓で当たりを引くと喜びも一入ひとしおだ。

 その後の地味子が何故だか妙に優しかったけど、まぁいつもの事だ。



 

 眼鏡女子ってのは女神とかその類いなのは間違いない、どんなに低く見積もっても女神の眷属天使だからな♪




 

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