第94話 御前試合観戦
御前試合は文字通り陛下の眼前にて執り行われる試合である。
古式に則り中央上段に陛下がお掛けになられ、一段下がった左右に軍務卿である儂、そして内務卿が控え更に下段に上級貴族が並び、周辺を近衛が固める。
異例なのは近衛を除く会場内警備や運営を全て元老院筆頭シーナット公爵によって手配されている事である。
帝国憲章の元老院特権を最大限拡大解釈をして暗部の一部の指揮権をもぎ取り更に常備武力を欲する…一体何と戦っていると言うのだ。
確かに帝国には尚武の気風が培われているが、それらは全て陛下の御為に捧げられるべきものであり、権勢を誇る政治の道具に使われて良いものでは無い。
それに騎士兵士とは武具と同様、使わねば錆びるし朽ちるが故に常在戦機の心持ちで鍛えるからこそ維持費もかかる金食い虫、おいそれと部隊を増やすのは至難を極めるのだがどうにか予算の遣り繰りを付けて議会を通してきおった…元老院とは無から有を産み出す錬金術師の類いなのだろうか?
新しい部署を任せられた人間は概ね二種類に分かれる、発奮する者と腐る者だ。
此度は幸いな事に部隊を束ねる者が発奮してくれていて練度も意識も高く保たれてはいるが…それでも腕に見合わぬ気位を示す者も少なく無い。
帝国の歴史を紐解けば本来なら黒騎士とは精鋭にのみ許された位階なのだ、それも例外なく窮地を任された死兵に託された称号であったのだ。
陛下の御身周りから血路を開き、時として前線を維持して隠せぬ血汚れを黒一色の装束にて無礼御免と立ち振る舞う。
血泥の面頬を外さず帝国の未来を時の陛下と臣民に託し、その身を全て戦いに捧げて消えゆく英雄達…
「
一端の将となり紐解かれる先達の指南書、思い起こさせるは一兵卒の頃の戦地洗浄の任。
死闘であった、「操兵とは損耗を抑えるが至上なり」そんな格言なぞ絵空事だと思い知らされる現実の戦場、只々任された足場を守り槍を突き腕が動かねば敵兵に槍を向け弾かれぬように身体で抑え込むだけの日々。
呆ける生き残りの若造共に先達の弔いこそ残された者に許された戦働きよと、考える間もなく血塗られた戦場を、力尽きた益荒男を、物言わぬ躯を、ご指導頂いた先達の亡き骸を…
血に泥に汚れた先達の亡き骸こそ黒騎士の正体であったと、思い知らされた昔日は遠くとも今でも瞼に焼き付いている。
磨き上げられた黒鉄を纏い揚々と肩で風切る若者を見ると何とも言えぬ感情が湧く。
歴代最強の黒騎士部隊と
案の定、随分と意気込んで儀仗の真似事までさせてる始末だ。
開始の時間に近づく頃、俄にざわめきが起きる。
何事かと問い質すと鑑定結果があまりにも珍妙なのだとか、MPなどたったの5だと言う。
更には徒手空拳で仕合うと言ってるらしい…あれだけ泰然自若に言い放っていたのだ、まさか大言壮語を吐いていたわけでもあるまいがMP5とは。
確かに帝国ではMPが偏重される傾向があるが流石に息切れを起こすのではないか、もしくはアクティブスキルを全く使わないスキル構成なのだろうか。
開幕は何らかの魔法だろうか槍の間合いの先から力の塊を飛ばしている。
盾で抑え込める程度の打撃、恐らくは下級魔術程の破壊力だろうが…何故にあれ程連射が出切るのだ?MP5ではないのか?
黒騎士も槍のアクティブスキルで飛び道具合戦となっている…ほう、飛び道具を跳ね返す技も備えているのか…む、消えた!?瞬歩の様な高速移動?
あぁ、あのタイミングで死角からの連撃、締めは一際破壊力のある力の塊…中級魔術程の破壊力だろうが連撃で完全に体勢を崩されてはかなりのHPを削られてるだろう。
後はどういう絡繰りか分からないが尽きない飛ぶ力の塊で押さえ込まれて終いだろう、相手の飛び道具に付き合わずに自分の間合いに詰めなければ勝ち筋は無かったと見える…只あの弾幕を受けながら距離を詰められるだろうか、更には謎の高速移動術も距離を取るのに使われては八方塞がりの感もある。
タイマンなら負ける気がしない、そう吹くだけの事はあると言う事か。
勝負ありだが何やら又もや騒がしい、どうやら次を出せと催促してる様だ…フフッ面白い、面白いぞ!腐っても帝国精鋭を名乗る黒騎士団を陛下の御前で手玉に取るとは!
しかも碌に休憩も取らずに連戦とは完全に格下扱いではないか。
だが得意の距離と戦法を見せてしまっているぞ?次の黒騎士は盾にメイス、確実に距離を詰めて屠りに来ている、さてどうする?
吶喊する黒騎士に真正面からカウンターだと?先程スキルを跳ね返した盾の様なスキルは斯様な使い方も出来るのか。
崩れた体勢を立て直すべく盾を構えた周辺に先程とは違う力の塊をバラ撒く…と弾ける、予期せぬ方向からの衝撃はダメージ自体は然程でもなかろうが否応無く意識を割かれ…何?盾の上から通る衝撃波だと?
あんなものがあるなら重装の利が悉く封じられよう、またもや秒で勝負ありだ。
その後も双剣、大剣、斧槍とそれぞれの使い手が送られたが一太刀当てることすら叶わなかった。
彼はこうも言っていた、自分は戦える方ではあるが強さで言えば上にもっと化け物達が居る、と。
宇宙開拓軍、恐るべし。
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