第92話 非公式折衝
「仁義、とな?」
片眉を上げて先を促す老将。
「はい、どうも新参者への教育のつもりなのか無法な横槍入れてくれる人達が居りましてね。多分それなりの人数が日の当たる場所には帰って来れなくなりますので先に御連絡と必要であれば調整の余地がある旨を申し伝えたく…」
そう、孫の手の連中との抗争は気付けば遭遇戦ではなく情報戦も踏まえた総力戦の様相を呈していた。
ま、本気出して動き出してくれたから色々と尻尾が掴めたんですけどね。
「随分と剣呑な話よのう…してどこの連中じゃ?」
酢でも飲んだ様な顔で聞いてくる老将、そんな顔してるとせっかくのワインが勿体無いですよ。
「帝国元老院筆頭シーナット公爵とそれに連なる方々ですね、リスト見ます?」
リストとやらかしてる内容を纏めたレジュメをそっと渡す。
単純に政敵やら都合の悪い相手を闇の手で消してるだけでは無く、敢えて適当な犯罪組織に資金提供
して活性化させて議会で問題提起して解決を図るとゆー壮大なマッチポンプを続けているらしい。
「どうも悪気なくやってる感じなんですよねー、コントロールできる問題を起こして解決する事で求心力とか団結力とかが育まれるって本気で考えてるみたいなんですよね。それならここいらで一つ巨悪と言う大役を演じて貰って大きな団結力の糧になってい貰うか粛々と無かったモノとして亡き者になって頂くか…どっちでもいーんですけどね、どーせなら消えゆく事を上手い事今後のプラス材料に料理して貰った方がいーかなー?と」
現状でも情報の扱い方の習熟や奇襲に対する訓練として生きた教材になっているが相手の都合に合わせて動かされてるのが気に食わない。
「お主らのメリットは?」
一通り目を通した老将は問うてくる。
「強いて言えば貸し1といったところですかね?正直本気でどっちでもいいんですよ、但し大事にするなら皇帝にはそれなりの態度を要求しますけどね」
「陛下にか?」
老将が睨んでくる、迫力あるなー。
「腐っても元老院筆頭なんですよね?帝国上級貴族の責任者なら皇帝さんですよね?」
あれ?何か間違えた?
「貴様、いくら何でも不敬が過ぎるぞ?」
あー、皇帝さん絡めるのがご不満ですか?
「ご不満なら皇帝から責任込みで引き離す段取りとかしてもらっても構いませんよ?」
やり方は妥協するっつってんだから良きに計らって欲しい所存。
「そういう問題ではない!」
なんだよ、面倒くさいな。
〈サエキさん、そうじゃなくて俺達の立ち位置の説明が抜けてるぞ?www〉
あ、そっちか、メンゴメンゴ。
「あー、すいません。我々の立ち位置の説明をすっかり忘れてました、私
これでいいかにゃ?四角四面な事を言い出したらいくらでも対処は出来るのだ。
確かに出入り業者の新規取引先って紹介だけじゃあ立場が不足も不足でしたねテヘペロ。
まーそれでも、一国の元首への敬意はそれなりにあるが下々を抑えきれない木っ端組織の長への敬意なんぞ限界もあるのだ。
文明レベルと比すれば充分に良くやっているとは思いますけどね。
「惑星?その宇宙開拓軍とは何の組織なのだ?帝国に仇なすならこちらにも考えがあるぞ?」
仇なされたのはこっちなんだけどなー、もう少し砕いて説明するかな。
「どこの国や組織にも帰属しない独立した技術者集団と認識下さい。目指すところは技術の研鑚と宇宙進出ですね。資金繰りの為に下部組織の一部として商会運営なんぞしておりますが基本的に技術力と技術を転用した軍事力を背景とした集団です。そして我々は他の組織に対する政治的介入を望むものではありません。発言の担保となる軍事的背景に疑問を持たれるかも知れませんが、現時点でも開戦前に帝国首脳陣をまるっと潰せるだけの戦力は確保してあります。手段を選ばなければ今夜にでも帝都を落とす事も可能なんですが…雑な手段は好みでは無いですし何より実行した場合のメリットが見出だせないのでやりませんがね…それに戦争は嫌いなんですよ、無駄が多過ぎてね。それに貴方程綺麗に事を収められる自信もありません」
ざっくりとご説明、ワインじゃなくてチェイサーが欲しいかもなー。
「仮に武力を根拠としたところで、それだけで国を相手に出来ると言うのか?腕力のみを誇るならゴロツキと変わらんぞ?」
おやおや?そーゆー事をおっしゃいますかー。
「どこの国の歴史を紐解いても腕力自慢のゴロツキが地域を纏めたところからスタートしてますよ?それとも神様から王権を授かったのじゃーって書いてある絵本でも準備します?5分頂ければ製本しますけど。我々が望むのは常に対話です、ですから今現在も会食の場に臨席しているのです」
食う、寝る、出す、それらは生き物が一番隙を晒す時だ。
それらの中で相対する者と時間を共有出来るのは食事くらいなものだ。
つまり一時的にでも矛を収めて、一先ずの敵意の無さを示し共存の道を探るのが会食であり求められるのがマナーなのである。
武器を持ち込まず攻撃の意思が無い旨を示す事、相手の文化や考え方に一定の敬意と理解を示す事、最低限の礼儀を示す事、それ以上のものはマナーではなく虚飾や蛇足なのだ。
一方の理屈だけで成立はしないのに皇帝の権威を振りかざすのならこちらも出せるものを出すしか無い。
「一晩で帝都の動きを止められる、だと?…それが可能だと言う根拠は示せるのか?」
若干ぐぬぬフェイスの老将。
「順番の後先になりますけど今回の下手人の首でも数珠繫ぎにして並べてみます?キッチリ落とし前付けさせたいんで簡単に殺したくないもんですから首は繋がったままになりますけども」
ほら、こっちも結構妥協してるんですよー。
「それだけの武力を誇るか…」
少しはクールダウンしてくれたかなー?忠誠心があるのは好ましいんですけどね。
「単純な武力と言うよりかは総合的な技術力が可能にしているんてすが…あー、理解しづらければ傭兵団みたいな扱いでも構いませんよ?金だけで動く事はありませんけど、タイマンならシーナット公爵でしたっけ?あの人の子飼いの連中程度なら負ける気もしませんが」
「あやつは立場上、騎士団の精鋭も周りに置いておるが?」
「軍人が怖いのは個の武勇では無く統率力です、もちろん個の質が高いのは存じてますが…恐らく対人の技はこちらに一日の長があるでしょうね」
「……ほう?ならば一つ御前試合を組んでもよいか?」
「別に構いませんけど…何かいい策でも?」
物凄く迫力のある笑顔で返されちゃったよ、笑顔の由来って威嚇だってのは案外本当なのかもねw
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