第91話 戦争の実態


「こちらの方々は私共ボッタクー商会の新たな知恵袋…いえ、出てくるのは知恵のみにあらず。そうで御座いますな、強いて言うならば指南役が近いかも知れませんなぁ」


 軍務卿の強い視線と声音にも構わずにツラツラと楽しそうに語るラナイー会頭、ちなみに横綱は厳つ過ぎるのでザッキーと共に休場でゴワス。

 そろそろ御挨拶した方が良いのかなー?さて今回は誰を矢面に出そうかな?え?俺ちゃん?パイセンも偶にはどう?え?パイセンだと中佐が前に出てくるからいつもと変わらない?しょーがないにゃ〜。


「どうも、ご紹介に預かりましたサエキです。どうぞお見知りおきを」


 やだ、俺ちゃんったら常識人っぽい!


「ふむ、武人の様ではあるが…それにしては妙に手が綺麗だな。いや、少々手の平の肉の付き方が独特であるか」


 目を眇めながらこちらを探る将軍、こういう時は普通にグラスを傾けるくらいが丁度よい。

 下手にミスリードを誘う様な動きは不信を買う、やっても精々相手に手の平を見せるポーズまでだ。


「小火器を少々嗜んでおりまして、本業は少し変わった武術を修めております。閣下のご慧眼に叶いますでしょうか?」


 帝国のワインはストレートに素材の味を表に出してくる、まぁ酒に限った話ではないのだが渋みよりも葡萄の良さを真っ直ぐに鼻先と舌先に突きつけてくる。

 若くとも実直、寝かしてもなお鮮烈さを失わないワインだ。

 老いてなお真っ直ぐな視線を寄越してくる老将は帝国気質そのものなのだろう。


「ふむ、儂にこうも睨まれながらも帝国ワインを慈しむ様に眺められては立つ瀬が無いな。聞こう、何が狙いだ?」


 垣間見えた孫を褒められた爺様の様な表情から一転し、帝国を支える軍務卿としての顔になる。


「そうですね、単純に生きる歴史上の偉人にお会いしてみたかったのが一つ」


「偉人?ククク…儂は一つ間違えれば帝国の屋台骨を傾ける大罪人だったと後ろ指さされる身ぞ?そんな大阿呆の面を拝みたかったと抜かすのか?よくも物好きとはいるものだ」


 呵々と機嫌よく杯を傾ける老将、帝国の赤は肉に良く合い人の舌に馴染み、そして少し饒舌にさせる。


「ズラリと並んだ大砲の天を割く咆哮は戦端を開く前から既に凱歌であったとか、さぞかし壮観であったことでしょうなぁ」


「なんじゃ、そっちがイケる口じゃったのか。あの頃は十ある予算の十を軍事、事に兵器に回せたからのぅ、あれ程楽な戦いはなかったわい」


 過去に馳せる瞳はそれでも夢見る様なものでは無く現在いまへの道筋に齟齬は無かったかと確かめるかの様だ。


「しかもまともに撃てた砲は十に一つも無かったとか、撃てぬ砲は即座に解体し復興物資の建材として現地消費。戦には金がかかると言うアピールと実際の散財、そこからの間髪置かぬ再開発、手柄は全て時の内務省に譲りつつもその後の帝国の発展に必須となる周辺諸国との繋ぎになる衛星都市整備を盤石なものとした見事な戦略。誠に敬服致しました」


 俺ちゃんの言葉に固まる老将、視線のみで会頭に問いかける。


「閣下、私ではありません。彼ら曰く見る者が見ればバレバレなんだとか…閣下の散財がその後の厭戦感情を煽ったところまでは存じてましたが、兵器稼働率の低さと建材物資への転用は指摘されるまで気づけませんでした」


 かしこまる会頭。


「指摘されたとして確かめる術などあるものか!どこから確信を得た!?」


 射抜く目つきで問い質す老将。


「当時の発注書に付随していた仕様書から、です。戦時下における生産性向上を図る…杜撰とも言える大胆なデザインと最小限の加工手順、追い詰められると斯様かようなモノまで最前線に求められるのかと長年の勉強材料にしておりました。まさか使わずに解体する事を目的としていたとは…正直震えましたよ、武器とは兵器とはこんな使い方もあるのか、と」


 確かに見せてもらった仕様書を前に色々解説した時に目ン玉ひん剥いてたもんなぁ。


「何が狙いじゃ?」


 暴かれた秘密に対価を求められてるとでも思ったのかな?


「只々感服したまでです。世の中には戦争したがる馬鹿が一定数いますからねぇ、戦争が儲かると勘違いしてるんですよ。どう算盤弾いたって赤字にしかならない筈なんですけどね、どんな歪んだ貸借対照表使ってるのか将又はたまた視野狭窄を伴う大病を患ってるのか理解し難いですけどね」


 そう、戦争は最も不経済な選択なのだ。

 え?歴史上戦争で儲けた豪商はいくらでもいる?あれは儲けたのでは無いのですよ、戦争で発生した諸々の負債を敗戦国に押し付けただけなのですよ。

 両国の資産を合算すれば戦後は必ず大きくマイナスになってます。

 戦後景気?国力を落とした経済圏で戦勝国が無理矢理鬨の声を挙げて景気良くなるように旗振ってるだけですよ?戦争で疲弊しなかった場合に同じだけの労力でどれだけの経済効果を見込めると思います?

 賠償金とか支払い能力を超えた請求なんて空手形もいいとこですよね?

 根拠の無いものに、さも価値があるかのように振る舞って資金を引っ張る手法ってどう呼ばれてるかご存知ですか?

 端的に言って詐欺なんですよね、国を挙げて行う詐欺を景気対策と呼んだ時代もあったとか。

 そして加熱した評価額が現実味のある額に再評価されるとバブルが弾けたりして責任が有耶無耶になって詐欺師丸儲けとゆー笑えない状況になるんですよ。


 それはさておき戦争なんざ民族の誇りだとか生存が危ぶまれるとか損得を超えた時に初めて選択肢に上がってくるものなんですよ。

 そんな戦争を周辺国併呑の名の元に実施して、その実碌に戦わずして派手な資本投下を人知れずやってのける…痺れもすれば憧れもするのである。


「ふむ…嘘を吐いてる顔ではないがの。そこまで分かってるのなら他言無用なのは…ま、言いつけても詮無い事か。して今一つ狙いがある様な物言いであったかの?」


 少し砕けてきたのは良い傾向…酔い傾向?ま、続けますか。


「そうですね、一言で言えば仁義を切りに来た、とだけ」




 こちらが本題なのだ。




 

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