第89話 アシュリーの考察


 キーアイテムの破壊により強制的に空間跳躍ワープさせられたアシュリーの脳内は多数のクエスチョンマークエクスメラメーションマークで埋まっていた。

 いつでも使えるようにとベルト前面のポーチにキーアイテムを入れておいたのは僥倖だったとも言えよう。

 貴重なアイテムだったが背に腹は代えられない、それよりも何故奇襲を許したかが不気味だ。

 帝都内に数ある隠れ家の内の一つにピンポイントでの包囲網、帝国の暗部を駆使しても簡単ではないし仮に暗部を動かせば直ぐに察知できたのだ。

 大事を取って帝都から離れるのが良かろう、帝国施設のアンカー使用によりここにも軍部の人間が程なくやって来るだろうから渡りを付ける通信魔道具を回線を開いたオープンチャンネルのままで去ってしまおう。

 誰の目だろうか触れられる機会は少ないに越したことはない、それに先程からじんわりと下腹が痛む。

 本格的なダメージを喰らう前に跳んだワープしたのだから余波なんだろうが少なくとも痣になっていそうな痛みだ。

 忌々しいが先ずは南へ向かおう。


 他にも解せぬ事が多すぎる、あの超能力サイコヤロウの動きは滑らか過ぎるし完全に俺の動きを止めてから目の前で図々しくも動きを止めて溜めのある技をパなしやがった。

 動きを止めるチートかステートを奪う投げ技の改変か?遠距離特化のクセに態々距離を詰めて来る様な舐めプを噛ます様な奴だ、相当なカスタムした「僕の考えた最強キャラ」に違いない筈なのだろうが…それにしてはユーゲンの上位キャラ大会で改変エスパーなんて見かけた記憶も無い。

 そもそも単純に強い技を積み込んでも他の技とのバランスが取れて無ければメタを差し込まれて速攻退場なのがお約束だ…それに強い技だっておいそれとエディットできるものでもない。

 つまり答えは一つだ、間合いを惑わせるエフェクトで近付いて投げの様な判定でダメージを奪う初見殺しの技をエディットしたのだろう。

 は…涙ぐましいもんだ、エディタがある訳でもないリアルでの新技構築は割かれるリソースだって大したものだ。

 今回は上手くハメられかけたがワープに助けられたって事だ、残念ながら一発芸なら次は無い。


 通信魔道具の先からは人が入り込む物音がする、随分と早い御到着だがどこの部隊だ?

 しかも入口脇の守衛室には誰も入らずそのまま奥のアンカーが設置してある部屋まで直行している様だ…何らかの緊急事態なのだろうか…もちろん俺が使うこと自体が緊急なのだが事前の取り決めの内の一手段に過ぎないので何か別の事態が起きてるのか?

 何にしろ守衛室に入って来るまでこちらから出来ることなど何も無い。


 歩を進めながら再度思索に耽る…高みの見物を決め込みながら場を荒らす、コンセプト的にアシュリーは大当たりの部類だった。

 影を纏い影に潜り込む、同系統のスキルは存在するがコストは重く時間制限もある。

 一方で格ゲー由来であればコマンドが成立すれば被弾さえしなければ延々と潜り続けられる、現実になった今では中々にメタを張られにくい能力だ。

 そもそもコンピューターゲームのRPGやMMORPGなんて原始たるテーブルトークRPGと比べれば魔法の種類なんて攻撃・回復・バフ・デバフくらいなもので少し変わったところで召喚がある程度だ。

 千里眼やら盗聴系のスキルなんか実装すればGvなんかの打ち合わせがゲーム内で出来なくなったり新たに様々なバランス取りが必要となってくるし最悪センシティブな問題にもなりかねない。

 探知系の魔法も存在はしているが範囲も狭く使えるシーンは限られるし、逆にマストにしてしまったら単純にゲームが面倒臭くなるだけで誰も喜ばない。

 故に影に潜り込んで距離を取ってしまえば勝ち確なのだが…電撃ヤロウは迷いなく対処して引きずり出してきやがった。

 あの対処、というか反応速度も思い返せば大分おかしい。

 ユーゲンのマニュアルモードは自由度が高く無段階的に各技を強化チャージ出来るのがウリなのだが正直スクワッドでの闇討ちくらいでしか使いこなすのは難しい。

 頭オカシイレベルの上級者の間ではフレーム消費をチャージに費やして目押しでコンボとか追撃に重ねると言う人外な使い方をするらしいが普通人には無理だ。

 それにゲームがリアルになった事で技のコマンド入力が微妙な体重移動だったり一定の構えを取ったりと忙しない、既存キャラならステータスとスキルと装備さえ整えてしまえば後は多少適当操作でも問題無かったのだが格ゲーキャラのリアル操作は思った以上にピーキーで気を使う。


 しかしアンカー設置設備に来た連中は何時まで経っても守衛室に入ってこないどころか撤退してしまった様だな…一体何が起きている?

 次の潜伏先はもう少し考える必要があるかもしれないな。

 

 


 


 

 

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