第88話 痕跡追跡


 〈ザッキー、敵が消えた。空間把握でも何も掴めない。位置追跡トレースは出来てる?〉


 すかさず念話を送る俺ちゃん。


 〈どうやら強力な魔道具で空間跳躍ワープしたみたいですね帝都の外から反応がありますが…距離がありますね。間もなく潜伏スリープモードに切り替わります、再度スパイダーネットの有効エリアに入るまで所在不明ロストとなります。念の為ビーストを数体派遣します〉


 空間跳躍ワープとは又気張ったものだ、俺ちゃんの様な瞬間移動テレポートとは仕組みもコストも全くの別物なのだ。

 テレポートは空間把握している範囲内に移動する超能力で極短距離且つ自分を座標基準として方向と距離を決めて実行されるのに対して、ワープは目印となるアンカー目掛けてキーとなるアイテムで補助する事で初めて可能になっている技術なのだ。

 宇宙進出を果たした人類史に於いても本格的なワープ航行は不可能な技術とされていた。

 テレポートの出力を無理矢理上げても稼げる距離は理論値の限界が低く結果としてコストを掛けても主機のクールダウン等で通常航行と大差がないどころか逆に遅かったりする。

 長距離のワープには始点と終点の座標データが理論的に必要なのだが座標は常に変動していて解析が出来ないのだ。

 もしも座標が解析出来たとしたら、それは宇宙全体の在り方を解析する事と同意義語なのだ。

 それ故、超長距離航行には亜空間カタパルト等の全く別のアプローチで解決策を見出しているのだ。

 そして座標データの入力を強引に端折った原始的な技術が魔道ビーコンにて双方の位置関係を割り出して強引に繋げるアンカー方式なのだ。

 それでもコストを初めとした様々なハードルは高く理論値で数千km、実験的に再現が見込めるかも知れないラインで数百km、安定した運用を前提とすれば頑張って数十km、この世界でも高価ながら一部で流通している簡易的なものなら十kmを上回る事は無い。


 それでも影に溶け込めるアシュリーにとっては逃げ切るのに充分な距離と言えるだろう。

 後はパイセンの撃ち込んだ銃弾に仕込まれた超小型発信機が何処までもってくれるかがネックになる。


 〈使い捨てのキーアイテムの破壊がトリガーとなって作動するタイプの様ですね、残留した魔力痕や霊波痕なんかが上手いこと検出できればいいのですが…取り急ぎ現場に向かってますが現状維持をお願いします〉


 やべぇw技術力のある変態は斜め上の解決方法を提案、実行してくる様だw

 程無くザッキーが横綱で乗り付けた頃には野次馬も集まりかけてたが地元の信頼篤いパイセン道場の面々を投入する事で落ち着きを取り戻した。

 安宿の主人にも迷惑料を握らせたので官憲が来る前に撤収すれば然程問題にもならないだろう。

 実際に手際よく、モノの数分でデータ取りを終わらせたザッキーは俺ちゃん達にサムズアップした後に横綱とハイタッチして騎乗していた。




 ――――――――




 アンカーが設置されていた施設は現在は使われてない小規模な砦だった。

 但し施錠や侵入者に反応する防犯魔道具が生きていたので、恐らくは帝国の諜報部が人知れず使用していたと見える。

 碌な隠蔽工作の痕跡もなく、速攻で逃げ出した様に見えるが、果たしてどうなる事やら…

 ザッキーが横綱を率いて様々な痕跡を不思議ギミックで記録・分析している最中に俺ちゃんとパイセンも隠し部屋や隠し金庫等の存在を探る。

 周辺に展開して、帝都と繋がっていたスパイダーネットから帝都常備軍の一団が向かって来ていると連絡が入った。

 どうやら軍部を動かせる人間が一枚噛んでいる様だ。

 俺ちゃん達の痕跡を残さずに速やかに退去し、周辺にスパイダーネットを展開し重点監視地域とする。


 アシュリーは南方向に逃走した形跡を残していたが鵜呑みにする程、初心うぶでも無い。

 素直に真逆の北部、ノーザンパイアとかに向かってくれてたら少しは楽チンなのになーw

 何なら東岸に点在する都市部、無人島秘密基地からの監視対象エリアとかに出没してくれてもいい。

 こちらは随分と緩やかな監視体制しか敷けてないけど、全く無いよりかはアリよりのアリとしか言えないアルヨ。


 帝都にスパイダーネットが食い込んでる現状は既にインセクト諜報よりもビースト制圧に比重をシフトしている。

 本当ならばじっくりコトコト時間を掛けて諜報網を築き上げたかったが世の中は得てしてままならないモノだ。



 

 誰もがお気の毒様なのだ。




 

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