第85話 (パ)ペットブーム in 帝都


 帝都は空前絶後のペットブームに湧いた。


 肉付けしている部分は敢えてメインの構造に組み込まず単純な重量マスバランサーとしてデザイン的にも汎用性を持たせたのだが、流石の帝都と言うべきなのだろうか多分流れてきたプレイヤーも居たのだろう、どう見ても二次元的なモデルを立体化三次元化した様な造形…つまり非常にアニメ的な造形のオリジナル木製パペットが現れてブームの火付け役となった。

 一方で素材を生かしたとゆーか原理主義と呼べばいいのだろうか、言ってみれば抽象的とも言える“動く置き物”を愛でる動く木像こそパペットペットであると声高に主張する者達も居た。

 そうかと思えば対極のリアル志向と呼べばいいのだろうか、毛皮や或いは精巧な彫刻で本物の動物に迫る芸術品や美術品になりうる造形物をペットとして連れ回す勢も現れた。

 図らずもパイオニアとして両勢力を牽引する形で前述のデフォルメ勢が一番のブームのムーブとなり、多様なペット文化を牽引した。

 そして生き物を飼うという、ある意味で本当に贅沢な趣味の理解が進み“生命の責任を持つ”と言う意味で“生き物を飼う”と言う行為に注目と敬意とが集められた。

 誰が言ったのかは知らないが似て非なるものの畜産への敬意も道徳的に説かれる様になったのは、誰のどういった入れ知恵だったのだろうか…何にしても第一次産業と分類される産業は文字通り富を産む産業としての敬意は払われるべきである事に疑問を挟む余地は無いであろう。


 間髪入れずにリリースされたパペット・サーヴァントは市場に波紋どころか大きな波風をたてた。

 限界はあるとは言え自由な造形の余地がある貴方だけの“特別製ワンオフ”が従者サーヴァントとしてかしずくのである、購入できる層には違いを見せつける一つのステータスとなった。

 いわゆる“不気味の谷”を超えない手前で個性を出すか、高額の費用を投じて毛穴すら再現する様なリアリティに価値を見出すのか、様々な派閥を産むことになった。


 いずれのモデルにしても本物を超える満足感や費用対効果は望めず、従来の市場に大きな影響を与えず単純に経済効果に寄与した塩梅は誰の采配か…神の見えざる手と呼ぶには少々意図的に過ぎる、と言うのは後の経済学者達の弁である。


 そして本来なら社会的問題として発生する筈だった、流行ファッションとして受け入れられた以上ある程度避けられない負の遺産として野良パペットの発生が一定数認められたが街中で散見はされるが景観を壊さない程度で住民に害をなさない存在として受け入れられていた。

 普通に考えればメンテナンスや動力が必要であり道端や街の外れなどに寿命を迎えた個体を見つけて然るべきなのだが、誰が管理している訳でもない筈なのに問題として表面化しなかったのである。


 同時に王国においても細々と食い込んでいたボッタクー系列の商店も目玉商品としてパペットペットを売り込み帝国仕込みのステータスとして流行を産んだ。

 侯爵も帝国に対する防波堤として様々な帝国風な文化を選択的に封鎖していたが様々な意味合いで許容できるものとして積極的に受け入れられた。


 後にザッキーは語る。


「分かっていたつもりではいましたけど文化侵略って余波がすごいですね。対費用効果と言う意味ではコスパがパナイですね(苦笑)。そのまま国境線を引き直す事にはなりませんが実効支配と言う意味では宗教に迫る影響力がありますね」


 西側に注力していたスパイダーネットが意図せずに東側にも広がったのてある。


 時期を前後して帝都の夜を翔ける正義の味方が出没すると言う都市伝説がまことしやかに語られるようになった、全身タイツの二人組だったり影に溶ける様な5人組と指揮官っぽい大柄な一人の組み合わせだったりと統一性が無い為に一般人には浸透しなかったが帝都の夜に根付く住民達には実体ある伝説として恐れられた。

 それはまるで意志ある伝説かと言うのであろうか、一つの共通点を持つ夜の住人達を食い荒らした。

 蛇のように鎌首を立て、時として猟犬のように吠え立て、そして猛禽の様に音も立てずに…しかし理不尽とも思える暴力は善良な市民に突き立てられる事は無く、時代の淘汰として受け入れざるを得なかったのだろうと後に語られた。


 それは、様々な思惑が交錯した結果が重なった、一つの時代の分岐点だったのかも知れない。

 


 

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