第73話 会頭との会談


「で、昨日の今日で詰めに行くんだ?w」


 冒険者を卒業した昨晩の内に合流して粗方の事は聞いていた。

 まともに会話が出来て立場的にも丁度良かった会頭の娘、ラナイー嬢に話を持って行ったのだが非常に興味深いお話が出来たそうだ。

 こちらの出したふだはズバリ北部統括支部長リーのヤラカシ内容、及び本部幹部のルーによる指示である証拠一式、並びに火消しの経緯とバレた時に被る損害を換算した金額と明細だ。

 ぶっちゃけ煽り方一つで戦争までは行かないとしても国家間の深刻な賠償問題まで発展しかねないのだ。

 王国の偉い人の伯爵さんはそのテの手綱の握り方は得意科目としてるらしいからねぇ。

 それを未然に回避したのは商会にとって正に命拾いと言える快挙なのだ。

 だからと言ってホイホイと商会を献上できる訳もなく、俺ちゃん達も別に商会丸ごと全部欲しい訳では無い。

 良くて商会の販売ルートの相乗りか最重要取引き先として優遇させるくらいで充分かな、って感じだ。

 最悪決裂しても程よく商会本部に物理的にも社会的にも深刻なダメージを残しつつ、既に掌握してる北部統括支部の職員を引き抜いて新しい商会を立ち上げる迄の話だ、当然販売ルートもまるっと頂きますからねー。


 ところがこの姐さん、思わぬところに喰い付いたのだ。

 ヤラカシの火消しの経緯と立て直しの資料を穴が開く程凝視したのだそうな。

 本業の武器商人からは本来なら畑違いの農業を中心とした北部の業績の予測売上げ上昇とその根拠に鋭い質問をねじ込んできたとか。

 あー、確か北部で大躍進を遂げた先代北部統括支部長はラナイー嬢の派閥でしたっけか、情報共有のレベル高いし勉強してるねー。

 そりゃ周回軌道から起こした地形データと超文明による気象予測と改良された品種、有効な肥料と作付計画指導と新規販売経路の拡大案と根回し済の仮契約書等々…パッと見で数字を盛ったブラフだと思われてもおかしく無いのだが盛るにしては一つ一つが妙な説得力のある数字であるのは確かなのだ。

 迷わずソコに注目出来るのは流石の商才の血脈と言ったところだろうか、火消しの経緯の手際の良さと実行力から察する戦力分析から全面的に譲らざるを得ない事態だと早々に白旗を挙げたのだ。

 ただ話が大き過ぎて独断では無理があるし幹部会にはかるとしてもルーの一派を除外するには鼻が良すぎて、まず嗅ぎつけてくるだろう、と。

 あっさりとルー率いる派閥を切る方向で話を進めるとは判断が早い、さすが女傑と呼ばれるだけあるw

 そうなるとトップの会頭に旗を振ってもらうのが手っ取り早いのだが生憎伏せてる。

 じゃあどんな病気なのよと本腰入れて調べようと取り出したりますは新兵器(ぱぱぱぱ〜ん)

 

 “モデル・モスキート”

超小型の生体情報回収特化モデルで体液等の生体情報サンプルを回収できるキワモノ、開発したは良いのだが用途がニッチ過ぎて活躍の日の目を見てなかったインセクトだ。

 秘密裏ひみつりに生体情報を回収し分析した結果、毒が盛られていたそうだ。


 しかしながら、それを聞いた俺ちゃんは普通にショックだった。

 だって伏してる大商会の会頭の病気の正体が盛られた毒とかさー、そんなん絵に描いた様なテンプレじゃないですかやだー。

 こちとら剣も魔法も無くて権と無法の量産型勘違い管理職との胸踊らぬ対話と書類申請だけですよ?

 え?量産型テンプレってルビ振っとけばいいって?勘違い系もテンプレっちゃあテンプレだって?いやー、混ぜるとどーして残念な事になるんだろうねー?orz


 データが取れれば後は早い、スパイダーネットでデータ受信したザッキーがM.O.Mと解毒薬を調合、飛空船で帝都近郊まで空輸の後、本邦初公開メタルバードでお届けですよ。

 本来ならメタルキャット(黒)でお届けしたかったらしいのだが簡易偽装までしか施して無かった為、万一を考慮して鳥さんにしたとザッキーがぐぬぐぬしていた。

 メタルバードのモデルがペリカンだったら少し違ってたのかも知れない。


 そして今日には意識が戻ってる筈だと会頭に詰めに行く中佐、面白そうだから当然付いていくことにしましたよw


 流石に病み上がりなんだから朝一は避けようよ、ホラ貴族相手に良くやる先触れとか出して異世界プレイしようよ!ってゴネて随伴してるクランの下っ端ちゃんに伝令を頼んだら、昼過ぎ所謂いわゆる3時のお茶の時間を指定された。

 帝国で有数の大商会の御茶菓子とか御期待できない!?ってパイセンがテンション上げてたのが印象的だ、パイセンは地味に食全般に積極的よなw




 ――――――――


 

 

 時間通りに訪問すると何やら覚悟を決めたっぽい会頭が迎えてくれた。


「解せぬ事がいくつかあるので質問させてもらってよいだろうか?」


 毒の影響だろうか“枯れた”と言う表現が相応しい初老の、商人と言うよりは武人と称した方が頷ける御仁が一頻りの挨拶を終えてすかさず問いかけてきた。


「此度の件、昨夜の段階では商会を乗っ取る勢いであったが要求を吟味すると随分と我らに譲歩した内容と見受ける」


 あー、中佐は初手ドア・イン・ザ・フェイスをブッパしたっぽいなーw


「ご病床の身、快癒も見込みまして強心剤になれば、と。それでもこちらの要望を全て飲めば乗っ取りと変わらない内容です。敢えて申し上げますが此度の火消し、それだけの台詞を吐くに足るかと?」


 腕を組み、眉間に皺を寄せて頷く会頭。


「精査は必要だが…君が出してきた告発を含む各種資料、病床とは言え私に上がってくる各種報告と連携出来るのだよ、予測できる上限値としてね」


 そりゃそーだ、テコ入れしはじめた北部の景気はしばらく右肩上がりだろう。

 景気とは一業種のみでは完結しない、常に他業種を巻き込んだ大きな波を総合的に捉えたものなのだ。

 ちなみに技術至上主義テックイズムが進んだ世界では景気と言う表現や現象は殆ど発生しないのだが貨幣経済や信用貨幣経済では景気は最重視される項目ではある。


「別に虚構ブラフのつもりもありませんが…精査する時間は限られているでしょうがどう転んでも我々には準備がある、それだけを理解して頂ければ充分です」


 うに覚悟は決めただろうが土俵際で粘る力士の様に決断のきわを徳俵に預けている様な難しい表情かおを見せる会頭。

 恐らく次の言葉が、今後を分ける分水嶺となるのだろう。




 

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