第69話 シェリー酒の夜
飲み会には名前が付いている、とゆーか飲み会のメンバーが大体決まってるから飲んでる最中に盛り上がって会員制にしよう!と誰かが言い出して、そしたら会の設立に当たり正式な名称を付けようず!となり「秘密結社美味しく酒を楽しむ会」と言う何ともヒネリの無い名前に落ち着いた。
メンバーは宇宙開拓軍幹部の俺ちゃん達六人と執事長、騎士団長、衛兵隊長、偶にボッタクー北部統括支部の幹部で呑み助な人達がゲストとして迎えられる。
そう、偶に横綱を引き連れてザッキーもやって来るのだ、基地拡張で忙しいけれどもソレはソレなのだ、飛空船作って良かったねw
けどボッタクー商会の連中はあんまり来ないんだよねー。
まー、メンバーがメンバーだからね。
会のルールは幾つかある、一番の大原則は「美酒の前に人は平等である」からはじまり、例えば「愚痴はいいけど程々に、人の悪口はなるべく言わない」とか「政治とスポーツの話はいいけど、誰かが話題変更を持ちかけたら速やかに違う話題に変える事」とかで難しい縛りは無い。
一番盛り上がる話題は共通の好みを探り合い、アレがいいねコレのココがいいねと褒める話で、まぁ大体は酒の話になるんだけどねw
例えば今回の主役、シェリー酒のミディアムドライはコクや味わい、そしてクドくない甘みがあり飲みやすい初心者向けのシェリーだ。
シェリー酒はカクテルのベースになる事もあるんだけどミディアムとかミディアムドライなんかはソレだけで完成されたカクテルの様なモノで好みによって冷やしてよし、常温でよし、俺に良し、お前に良しと万能感漂う非常に好評価なジャンルなのだ。
そうやって聞くとイイトコ取りの完成形でソレだけあればイインジャネ?と思うかもしれないが、シェリー酒の世界も奥が深くフィノの爽やかな清涼感やアモンティリャードの適度なコクと余計なモノを削ぎ取って満足感だけ残した様なバランスの良さやオロロソの重厚な味わいなど
ざっくり言うとシェリー酒はフィノ、アモンティリャード、オロロソの三種類が在ってフィノが一番軽い味わいで酸味が強く殆ど透明、後者にいく程色合いは濃くなり味わいは深く重厚になってくる。
それとは別にクリームとかペドロヒメネスとかドロッドロに甘い種類もあってそれらをバランス良くブレンドしたのがミディアムって感じで覚えておけば大体合ってるかな?
もっと言えばマンサリーニャとかモスカテルとか色々あるし、そもそもシェリーを名乗るには生産地も定義付けされてるんだけど細かい事はキニシナイw
其々の酒の其々の良さを語りながら飲むのは非常に楽しく、時の過ぎ方が早いのなんのw
そんでもって今夜はスペシャルゲストがいらっしゃるそーだ、次期伯爵のゴナン氏だ。
伯爵からは殆ど放置されて他の兄弟とも齢が離れすぎてて絡みも無く、ある意味自由気ままに芸術を愛して育った坊ちゃまは先日成年を迎えたらしい。
酒の飲み方を覚えるのも教育の内と、厳しい教育係の執事長と騎士団長に連れられてきた次第だ。
詰め込み教育のせいか多少やつれて見える、今夜は美酒で癒やされる事を願いますね。
「いやぁ、コレはワインとは違い…何と言うか、飲みやすくも深い味わい、そして強いインパクトがありますね」
既にワインはお召しになられてる様で中々鋭い考察をしてくる次期伯爵。
「酒精強化と言ってシェリーの元となる白ワインに蒸留酒を入れてますので酒精はやや強めですね」
簡単な解説にも感銘を受けたのか小ぶりのワイングラスを掲げて光に透かしてまじまじと眺めるゴナン氏。
「色合いも素晴らしい…深くとも繊細でいて鮮やか、目に美しく味わいも素晴らしい…嗚呼、どの様な筆使いで描けば、どの様な言葉を紡げば表現できるのだろうか…とと、こんな事を言ってると爺や達に何時までも夢みたいな事を言ってるなと小言を貰ってしまいますかね」
イタズラを見つかった子供の様に肩を竦めて、おどけた表情で軽く流そうとするゴナン氏。
「宜しいかと思いますよ?」
敢えて流れを止めて一石を投じてみる。
驚きの表情を晒す伯爵家の面々に一席弁じてみますか。
「宜しいかと思いますよ?確かに今は次期領主として色々と覚えなくてはならない事、身に付けなければならない事で追われている事でしょう。しかし
ここでシェリーを一口舐めて、待ったが掛からない事を確認して続ける。
「思うに領主自ら絵筆を取り詩を吟じる文化的な都市造りなんざ素晴らしい絵図だと具申しますよ。なに、週に何度かワイングラスを持つように、週に何度か絵筆を持って悪い道理は御座いません。確かにやるべき事は多いでしょうが御自身が身を粉にして余暇まで捧げる必要は御座いません。どんなに手を加えても、どんなに身を捧げても政治が良い時代など過去・現在・未来永劫1秒たりとも存在しえないからです、政治の最高得点は及第点まで、です。もし政治が満点を取れるのならば…それは非常に歪な社会と断言しましょう。良い時代とは、精々景気が良い時代くらいなもんです」
技術進捗は時代を切り取れば常に発展途上であり例え集大成となるモノが存在しても同時に妥協の産物なのだ、豊富とは言えリソースは有限であり技術的なボトルネックは必ず存在する。
例え市民の満足度がどれだけ高くてもそれで政治が完成した訳では無いのだ。
歴史的に、技術発展に水を差し続けてきた及第点に遠く及ばない政治を
「なるほど…しかし我が身の不足故に中々どうして手が足りそうも無いのですよ」
自嘲するゴナン氏、少し酔ってきたかな?
「手が足りなかれば人に任せれば良いんですよ、任せるのって言う程簡単では無いですが簡単では無いからこそ上に立つ者の仕事なんですよ。機能不全に陥る傾向を掴める仕組み作りをしたら後は進む方向を示してドンと構えて部下に任せるのが首領の仕事ですよ」
ザッキーが援護射撃に入ってくる、然りげ無く「ドン」と「
「そもそもの人手不足と言うのでしたらサロンの御友人方を引き抜いては如何でしょうか?我々の場合は美酒を愛すると言う共通の価値観を持つ同志ですが居てくれるのは頼もしいものです。同様に芸術を愛する同志で無聊を慰めてる御友人は御座いませんか?領主が示す先が芸術の都ならば思いもよらぬ力を発揮されるかも知れませんよ?(苦笑)」
確かに今までの経緯からゴナン氏を取り巻いていたのは家を継げない次男三男以降の“あまり期待されてない芸術好きの貴族のボン”達ばかりだ。
今は何者でも無い連中だが、既存のどの派閥にも属してない無垢の卵とも言えよう。
「海千山千の古参渦巻く世界に彼らを…ですか…」
思うところがあるのかグラス片手に考え込むゴナン氏。
「一つ
瓶詰めする際には最も古い樽から取り、取った分だけ二番目に古い樽から補充して二番目の樽には三番目に古い樽から補充して…これを繰り返していくのです。こうすると個性を保ったまま古い酒と新しい酒が常に混じり合い毎年安定した品質のシェリーが出荷されるのです。ブドウの当たり年も外れ年も同じ様に繰り返していくのです。普通のワインとは違うでしょう?もしかしたら少しずつ味が違ってきて百年前とは別物になってるのかも知れません、けれど毎年同じ様に個性を引き継いだ期待できる味わいに仕上がるのです。素晴らしいと思いませんか?」
シェリー酒を語る上で良く出てくる話だ、ちなみに泡盛の
「古きと新しきが混じり合い良質のものを作りあげる、ですか」
どうやらゴナン氏の眼に力が、胸に炎が宿った様だ。
「そうなると御友人達との交流の時間も必要ですよね?」
教育係に振ってみる。
「いやはや、我が身の不足に汗顔するばかりですな…同じ轍を踏むまいと若には詰め込み過ぎてた様です」
「全くです、この齢でも未だ勉強不足を歯噛みするとは…」
反省しきりの教育係のお二人。
「政治も人生も技術も、どの時期どの瞬間を切り取っても発展途上だと我々は教わりました。若輩者が生意気ですけどね(苦笑)」
サラッと締めてくるザッキー、パイセンは随分とおとなしいけど…あ!アモンティリャードをコッソリ開けてやがる、こっちにも回さんかいw
その後も様々な意見を肴に時間が溶けて行くのだった。
シェリーの何処か乾いた味わいは喉を潤しつつも次の一杯を誘う罪なお酒なのだw
後に芸術の都の祖と呼ばれる領主、絵画を愛し詩を吟じ文学に傾倒しつつも善政を敷いた傑物は殊更推理小説を愛したそうだ。
領内の様々な問題や事件を鋭い考察や名推理で解決していく様は名領主ゴナンと呼ばれたとか呼ばれなかったとか…
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