第68話 竹割り人


 そこからはグダグダだった、監査人の内容の無い演説がループしたところで結局何が言いたいのか尋ねたら「事実関係の聞き取りが急務であり、ギルド内の改善点を精査するのが私の業務です」とか抜かしやがった。

 そんなら衛兵隊に立体映像再生機3Dホロムービーの元データをはじめ証拠品やら証言やら全部揃ってるから、そっち行けよと促して差し上げたら不満気に出ていったよ。

 去り際に「誠に遺憾です」とか言った時は吹き出しそうになったけどな。


「すげーな…御高説を垂れるだけ垂れた挙げ句、聞き取りがしたかったとか…あんなに人の話を聞くのが下手くそな奴は初めて見たわ」


 妙な疲れに肩を回す俺ちゃん。


「何とか私達を説得して問題を揉み消し、又は出来るだけ小さく納める頭でいらっしゃってたんでしょうね」


 う〜ん、地味子のリアルボイスも中々に良いモノだなぁ。


「そもそも監査ってのは正常に回ってるかどーか確認するもんなんだけどなー、ありゃあ普段から重箱の隅をつつく様な見方しかしてないから自分の職業倫理とか見失ってるんだろーな」


「肩書きでマウント取るのがお好きな様でしたね…パワハラダー?」


「やるなw人に不快感を与える“腹立ハラダたしいハラダー”とかもどうかな?w」


「帝都に行った際に冒険者ギルドにも寄って現地でどう呼ばれてるのか是非確認しましょう」


 全く地味子は優秀すぎるぜw




 ――――――――




 ひとまず監査人との面談も終わったので衛兵隊本部まで足を運ぶ、監査人との面談も終わったので禁足令は解かれたのか確認する為だ。

 受付けなんて気の利いた物は無く、入り口で立哨してる衛兵さんに挨拶して訪問の旨を伝えると中に案内された。

 案内された部屋で地味子と待つ事しばし、第三候補「セクハラダー」がノミネートされた頃、偉くご立腹の隊長さんがやって来た。

 どうやら監査人がこちらでもやらかしてた様だ。


「一見すると物腰は柔らかくて言葉遣いも丁寧だったんですが、やれ「証言の取り方に偏りは無かったか」だとか「証拠品に意図的な改ざんは無かったか」とか…こちらの職務に対して非常に懐疑的でしたね、確かについ先日まで一部の不心得者は居ましたが抜本的な綱紀粛正により上から下まで風通しが良くなりましてな。お陰様でやり甲斐のある忙しさに追われてましたが、アレは正に慇懃無礼を絵に描いた様な御仁ですな。人の心に水を差す事を得手としてる様ですな!」


 相当やらかしたらしいwこの隊長、竹を割った様な質で曲がった事が生理的に受け付けないらしく、真反対の得意科目は汚職です!と履歴書に書けそうな、伯爵からの覚えめでたい前任者にも色々苦言を呈してた様な御方なのだ。

 余談だが騎士団長や執事長を交えて竹を割った酒器で飲む日本酒党からシェリー酒党に鞍替えさせられてしまった御仁でもあるw

 一頻り監査人の人物評を吐き出したところで気まずそうに告げてきた。


「それがそのう…止めはしたのですが証拠品のほろ、ほろむぅびぃとやらをペタペタと触りまして…重要証拠品である上に一時接収品なのであくまでも一時的に借り受けてる魔道具にみだりに触れるのは法に反する旨を説明してる最中に触りはじめまして…」


 責任者としての保管義務が遂行出来なかった事を悔やんでる御様子。


「ほう?少し確認しても宜しいですか?」


 〈“法”に“ほう”と返す御技おんわざ、勉強になります〉


 おいおい地味子ちゃん、高機能AIに学習されちゃったら俺ちゃんのアイデンティティが危険でピンチだぜ?w


「どうぞ、何しろ慣例とされてる返還期間を超えて預からせて貰ってる貴重な魔道具、さぞかし不便を強いてるかと。おあらため下さい」


 立体映像再生機3Dホロムービーを前にトリニティ・インテグラからログを確認すると何やらダミーの操作ボタンを押したり魔力を通したりと意味の無い事を色々試した模様…詳しい説明は省くが、この手の超文明魔道具トンデモアイテムってのは常時稼働が常識マストなのだ。

 チョチョイとイジって簡易再生データに監査人が触り始めたところからのデータを継ぎ足す。


「なんか追加記録機能を呼び出したみたいですね…見てみます?隊長の説明を無視してガチャガチャ触ってるシーンが克明に記録されてますよ?いやぁ、普段の行いってこーゆートコで出るんですかねーw」


 即座に上映会に移行して見事に“衛兵長が説明してる最中さなかに自分の身体で視線を遮りゴチャゴチャ魔道具をいじくる監査人”が確認できた。


「隊長さん、このデータの内容証明発行の上、魔道具の半永久的保管を申請します」


「え、は?このレベルの魔道具を、ですか!?」


 キョドる隊長さんw


「どうやら帝国の規範?常識?とやらで冒険者ギルドは増長してると見ます。しかしあくまでも治安は皇帝より領地を任された領主の采配で治められるものです。そしてこの地で治安を任された衛兵隊長こそ法の下での正義であり官憲とは斯くあるものであると認識してます。楔として有効活用して下さると思えば我々としてみれば安い買い物です、それに申請すれば一定期間後の返還も認められてるのでしょう?」


 軽くウィンクして心配するなドンウォーリーとボディランゲージ。

 勿論この世界の常識は知っている、半永久的保管申請とは治める領主への上納品と同意義である事を。

 まぁ最悪どーとでもなる、それよりも提案したい事が俺ちゃんにはあるのだ。

 衛兵隊長の視線を真っ直ぐと覗き込み、イタズラ小僧を気取って提案する。


「その経緯で監査人がここに居ないって事は騎士団長当たりに凸ってるんでしょう?そしたら騎士団長の心労を思えば今夜辺りは飲まずに居られないのは確定的に明らか!」


 人差し指を立てつつ建設的を提案する俺ちゃん。


「いいシェリー酒が入ったんですよ、今夜辺り騎士団長や執事長を交えてどうです?」


 万国共通のジェスチャーで飲み会の開催を促す。


 返す衛兵隊長はココ一番の良い笑顔でサムズアップだ。


 〈マスターは酒呑み限定で人誑ひとたらしですね〉




 オ〜地味子♪一番誑したいのはお前なのだよ〜♪




 

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