第67話 極めてイカン


 地味子タンの念話でハートがまろやかでマイルドな気持ちになってしまって監査人とやらとの会話が煩わしくなってきてしまった、俺ちゃんは地味子タンの魅力キュートに速やかに参るど?なんつってー♪

 そんなハッピーで浮ついた気持ちで懐からザッキー謹製便利アイテムを取り出す、立体映像再生機3Dホロムービーだ。


「百聞は一見に如かずと言いますので、こちらをご覧ください」

 

 有無を言わさずポチッとな♪と再生、タイトルは「ギルドマスター三部作トリロジー#老害はギルドに巣食う」ノーカット版一挙公開であります。

 ep4「新たなる勧誘〜威圧と暴力と脅迫〜」ep5「グラサンの奇襲〜そして敗北へ〜」ep6「ギルドの欠陥〜ギルマス不在の方が仕事が捗りますたー〜」忘れ難い我らがハッシュタグとの出会いから捕縛後の後日譚までを克明に描いたドキュメンタリーだ、尚ボーナストラックは特典映像「ギルマス判断で切り捨てられた仕事達〜部下には時間は作るモノ!と言いつつ忙しさを理由に未処理案件に封じられた要ギルマス処理案件書類達の行方〜」で、こちらも結構な力作なんだけど今回は割愛。


 立体映像再生機3Dホロムービーは勿論超文明アイテムなんだけど類似品が魔道具としてダンジョンから極稀に産出されるレベルで存在する、極レ存って奴で微レ存よりもギリ有りかな?って感じだ。

 あまりの解像度に立体映像再生機3Dホロムービーに手を伸ばす監査人、オイタはめーよと伸ばした指先に愛銃ハンター357を突きつける。


「冒険者所有の魔道具に無断で手を出すのは御法度ですよね?」


 威圧感てんこ盛りの大型拳銃を突きつけられて慌てて手を引っ込める監査人。


「あっ、いや、でも、しかし!高々F級がこれ程の高価な魔道具など持てるなど信じられないではないですか!?そんなの確認する必要がありますし場合によっては証拠品としてギルド預かりにもなりますよ!」


 どうにかこうにか己の正当性を取り繕おうとする監査人…信じる信じないじゃなくて俺ちゃんが指摘したのは、冒険者の生命と財産の保護を旨として設立された組織の人間として頭に叩き込んでおかなきゃいけない冒険者ギルド憲章の最初の方に書いてある事だし、そもそも他人の物に勝手に触るとか常識以前の問題なんだけどなーw


「仮にそうだとしても公的機関の立ち会いの下、一定の手続きを踏んだ上でないと違法ですよね?そんな事より再生内容は御理解頂けましたか?帝国北部随一の都市ノーザンパイアとそれに連なる領地を治める伯爵家麾下の治安組織が、私達は被害者であると認めているんですよ?」


 自分が何しに来てるのか早よ思い出せよと促す優しい俺ちゃん。


「た、確かに認識に齟齬があった事は認めます…そ、それでもS級冒険者の指導が受けられるなど前例こそありますが極めて異例な事なんですよ?」


 前例大好きの次は極めて異例好きですか?これは最後に極めて遺憾とか言い出すアレだ…そう、アレ。


 〈極めてイカン奴ですね〉


 エクセレント地味子♪ドヤ顔すらもキュートなエンジェル、その笑顔が日常に散りばめられる奇跡に感謝だね。


「えーと、何でしたっけ?確か…“つまらぬ拳撃”?でしたっけ?流石S級だけあって体術は大した技術でした。ええ、実際に拳を交えたので其の辺は分かりますよ。ですが恐らくは指導力には期待出来ないですね。そもそも力量を測るために襲いかかってくる時点で相手の技量を推し測る眼力が無い、もっと言えば常識も無い。指導力ってのは又別の技術なんです、昔から言うでしょう?“名プレイヤー必ずしも名監督にあらず”って。同じ様に高度な技術を持つ者が人格的に優れているなんて保証は皆無ですよ?これらは全く独立した別々の素養なんです。だからこそ切り分けて人格を磨く時間を捻出出来ない技術者達は磨いた技術から法則を学び人生訓に落とし込めないかを模索するんです。逆に人生経験から技術に落とし込めるモノは無いかと模索するのも技術者のサガですけどね、そして人格を磨けてる自信がない技術者達は自らを“技術バカ”と名乗るものなんです。残念ながらグラサン氏は“技術バカ”を名乗るに値しない、控えめに言って“バカ技術者”が関の山ですよ」


 体術も又技術、技術至上主義テックイズムはあらゆる技術に言及してるのだ。

 例えば人格、この場合は人格キャラクターとの混同を避ける為人間性ヒューマニティと言い換えた方が理解しやすいだろう、技術至上主義テックイズムでは人間性は社会的に活動する為の技術として捉えている。

 一般的に人間性の成長とは身体の成長に伴いホルモンバランスが安定する十代中盤頃に一度止まると言う。

 その後は経験や学習で意識的に磨いていくしか無いのである。

 体育や体操と言った肉体操作技術の観点から肉体的健康に気を配る歴史は古く、“運動不足”だとか“寝不足”などと言う肉体的ケアを促す単語は日常に深く浸透していた。

 一方で人間性は時代によっては“宗教的倫理観”や“価値観の多様化”等により指標の確立が阻害され、時には最低限の社会性の維持に必要な人間性の成長すら危ぶまれた時代もあった。

 また明確な指標が示される以前の時代には「昔は良かった」とか「昔は変な事件を起こす様なおかしい奴がいたとか聞いた事が無い」なんて言葉でお茶を濁されていたが少し冷静になって考えて欲しい、自分より下の世代に語り継ぐ時に「自分の世代に素晴らしい人が沢山いた」は言いやすいが「自分の世代に頭のおかしい奴が沢山いた」は言いづらいのである。

 そもそも人間性の指標が社会的に示されて無く、各々独学で積み上げていくのは非効率的であり、むしろ頭のおかしい奴が沢山育つ方が自然なのである。

 人間性の指標とは「どれだけの人口がどれだけの土地でどれだけの技術レベルで生存するかを前提に、他者の生命や財産を害さないに足る共通の価値観」であり外的条件から形成されるべき物であり、何より「技術の発展を阻害しない」事が肝要なのである。

 そして体力と同様に人間性は衰えるものなので、身体も心も適切に動かし続ける事も重要なのである。

 例を挙げるとすれば歴史を紐解けば…


 〈マスター、ストップです。そろそろ二代目マジべーのぐぬぬタイムが終わりそうです〉




 流石地味子♪人類はAIと共に在ってこそ社会的に安定して振る舞えるのだw




 

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