第61話 ボッタクー商会北部統括支部


「気持ちは分かるけど一人当たりナイフで5回刺させるくらいにしとこうか、間違ってもまだ殺しちゃめーだからな?」


 伯爵家地下には案の定、拐われて畜生共の慰み者にされていた被害者達が囚われていた。

 救出された被害者達の傷は深い、高度な魔導技術による治療で身体的な損傷は補修できても心の傷手は難しいのである。

 仮に完璧なセラピーを施したとしても記憶が残っていれば後遺症フラッシュバックは発生するし、記憶を封印したとしても元の生活に戻ると様々な齟齬が生じて記憶が戻る可能性がある。

 記憶の消去は技術云々の前に理論的に不可能なのだから本気で癒そうとすると長期的な、それこそ人生に寄り添うくらいの覚悟が必要なのだ。


 正直、救出時の惨状を目にした時には普通に逆上して勢いのまま犯人の息の根を止めてやりたくなった。

 今だって生きてる価値は無いと断言できる。

 ただ俺ちゃん達は正義の味方ではないのだ、まだ死なれると不都合が生じるから生かす、それだけなのだ。

 ついでに言えば、他にも沢山刺したい人も居る筈だから簡単に殺してやるのも業腹なのだ、関わった以上は出来る限り多くの方に復讐して頂きたい所存なのである。

 表向きは病気療養と言う名目で四馬鹿をナイナイして時期を見て死体だけ戻して葬式からの五男への襲名と言った運びだ。

 既にやっかいな性病だと噂は流してあるし世間はソレで納得している…日頃の生活が察せられるなー。

 え?四男?そんなん新種魔物“通り魔”として疾うの昔に処理済ですよ、簡単に処理してしまったのは後悔しきりだから掘り返さないでネ〜☆ミ

 伯爵家内では騎士団長と執事長による五男教育と害虫駆除が進んでいる、場合によっちゃ俺ちゃん達もナイナイに協力してたりする。

 伯爵家はそれで大体カタが付いた。


 ただなー、伯爵から芋づる式に付随する不正のアレコレが面倒くさいのよなー。

 いや別に“不正を暴き世にメスを入れなんちゃらー”みたいな事をしたい訳でもないんですよ。

 何度でも言うが俺ちゃん達は正義の味方でも何でもない、ただ一定の社会的機能を任されている組織が期待されてる機能を果たしてないと面倒くさいよね?って話なのだ。

 落とし物拾って警察届けたら、着服されても困るよね?拾得の経緯が怪しいから逮捕するとか言われても困るよね?火事を消防署に通報したら今中華料理作ってて忙しいからパス、とか言われても困るよね?火力が命なんで、とか言われても困るよね?

 まー極端な例えをしたけども、衛兵とクランが癒着して犯罪の見逃しどころか誘拐やら恐喝やら何やらの横行が著しいのよ、当然クランのバックに付いてる商会も含めてね。

 衛兵は害虫駆除に鋭意取組中なんだけど、クランって治安維持の委託とかもされてるから、割とやりたい放題なんよね。

 ま、全部が全部腐ってる訳ではないのが救いではあるんですけどね。

 本来ならクランの管理は冒険者ギルドなんだけど…あのギルマスは権威主義者の日和見主義者だからなー、小物過ぎてスルーしてたけど仕事しなさすぎてるツケがこんだけデカいとお仕置き確定よな。

 昔は有能な冒険者ギルド員だったかも知れないけどギルド員として有能なのとギルドマスターとして有能なのは別の能力を求められるからなー。

 もっと言えば随分な年月をノーザンパイアのギルマスとして過ごしてきたみたいだけどソレもマイナス材料だね。

 パッと見、判断が早くて有能に見えるかも知れないけど長く居座ってりゃそれなりのノウハウが蓄積するのは当たり前で、誰だってできる事なのだ。

 そーゆー時は試しに異動させてみると馬脚を表す事請け合いだから。

 本当に仕事が出来る人は何時でも引き継ぎ出来るくらい仕事を整理出来てる人なのだから。

 ま、そこまで出来る人ってのも珍しい部類だけどね、だから人はサポートAIが付いて初めて一人前を気取ってられるのだよw


 閑話休題それはさておき、根本的な解決には時間が必要だし、そんなん俺ちゃん達の仕事では無い。

 かと言って完全放置してても、こちらが動きづらいので出来る範囲で対処療法する事にした。

 具体的には夜な夜な地味子とデートする事にしたのだ。


 …あ、ちょっと待って、言葉が足りなかっただけなんだ。

 たちの悪いクランメンバーが屯する酒場で地味子とデートを楽しんでると、漏れ無く絡んできてくれるのだ。

 後は物陰に連れ込まれて、アーッ!て言わせてやるのである。

 一々個々の所業まで把握するのは脳のリソースが勿体無いから一律でタチが悪くなるくらいのお仕置きで、不足分は後から再起不能リタイアまで追い込む所存です。

 当然クランのトップまでOHANASHIさせて頂いて飼い主の商会を紹介して頂くまでがワンセットだ。

 ただやり方が非効率なので一晩で三クランくらいまでかなー、時々とち狂って官憲に助けを乞う半端者もいるけど…残念だったな、官憲のトップである伯爵家は既に我らが手に落ちてるのだよHAHAHA!

 大体ね、常日頃暴力を公用言語に採用してる諸君が自分達が弱者の立場に回った時だけ法に頼るのは不合理が過ぎると思わないかね?


 そして我らの本命は中佐にお願いしている。

 ボッタクー北部統括支部の現地採用枠に入り込み、AI特有の事務処理能力やらアレヤコレヤの提案やらでメキメキ頭角を現しながらも支部内の御局様やらマダムやらの人気も絶大、従来に習えば出る杭は何故か街の不逞の輩に打たれるのだが今回に限ってはボッタクー後援のクランは怪我人続出で機能不全。

 一週間も経つ頃には北部統括支部のナンバーツーである…いや、あからさまにオカシイのは分かりますよ?ただ直近にから来た新しい人事査定基準にやること為すことことごとく当てはまり昇進させざるを得なかったのである。

 否、照らし合わせたら本来なら二日前には今の椅子に座ってなければならなかったのであるが支部の最終決裁者である支部長が三日目あたりから行方不明になり昇進が遅れたのである。

 新副支部長就任に伴うアレコレで俄に活気付き、忙しくなった支部内では通常業務には殆どノータッチだった支部長派閥の人間達が1人、2人と出社して来なくなったのだが誰も注目しなかった…唯一人、御局様が放った「あの連中はいない方が仕事が回るわ」の一言に尽きるのであろう。




 

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