第58話 ノーザンパイアの冒険者ギルド


「どうしてすぐに顔を出さなかった?」


 こめかみにハッシュタグを付けた初老の男、ノーザンパイアの冒険者ギルドマスターが問うてくる。


「え?なんで来ないといけないんですか?」


 何かのコマーシャルに使えるくらいのキョトン顔で質問に質問で返す俺ちゃん。


「貴様らには出頭命令が出ていたのが分からんのか!」


 昨今のハッシュタグはアニメーション処理されたるのかピクピクとよく動く…gifかな?


「はぁ、だからソレを下の受付けで知ってすぐに顔を出したワケですが…何か緊急性のある事ですか?それなら呼び出す対象に知らせる緊急手段を構築するなり何らかの努力すべきだと進言しますが?」


 誠実で生産性のある提案をする俺ちゃん、黙って頷いてくれる地味子は最高ですね。

 こーゆー時に余計な口を挟まずにいてくれるのは間違いなくイイ女である、もちろん軽妙な合いの手が入れられるのも間違いなく得難い才能である事にも異論はない。


「ぐぬぬ、それは貴様らがクランに入ってないから伝わらないんだ!それにノーザンパイアにはクラン探しに来たのに二日も三日もギルドに顔を出さないとはどういう了見だ!」


 あー、語るに落ちるとゆーか何とやら、この街は間違いなく衛兵とギルドはツーツーなのが証明されてしまったワケだよQ.E.D.


「ヤだなーw男女の二人旅でナウでホットな北部最大の都市ですよ?察して下さいヨー」


 ミナマデイワセンナヨーのポーズで軽くあしらうと後ろでは地味子がイヤン♪と頬に両手を添えるポーズでコラボレーション、デキる女はとことんデキる。


「ぐぬぬぬぬぬ…ギルド員は拠点を移動したら報告義務があるのを知らんとは言わせんぞ!」


 ちょっと長めの“ぐぬぬ”頂きました!どこまで“ぬ”を伸ばせるのか、ぐぬぬ選手権大会の開会です!地味子さんのエアーパフパフが地味に嬉しいナウw


「すいません、登録時の説明にその様な項目はありませんでしたが…受付嬢のマニュアルにその様な項目はありますか?我々はテイキョー支部の受付嬢のループした説明を3巡目の途中まで拝聴しましたが報告義務云々に関しての説明は一言も無かったですよ?」


 背後では腕を組みウンウンと頷くキュートな地味子タン♪


「そ、それは…帝国においてはクラン制を敷いていて細やかな説明はクランに委託している業務なのである!」


 クラン制…まぁ、地域柄なんだろーなー、冒険者ギルドとして明文化されてないのは合点承知之助でごさるよ?


「クラン制?クラン入会って推奨案件であって義務ではないですよね?そしてクランにギルドとしての説明義務を委託するのは…それって確かギルドから委託してる旨を掲示して新規ギルド員に個別説明する義務とかありませんでしたっけ?そこまでの説明は受付嬢から無かったので存じ上げませんが…」


 本部発行の指南書マニュアルった上で敢えて聞いてみる。

 

「ぐぬぬぬぬぬぬぬぬ…もういい!貴様らは下の受付けで所属クランをサッサと決めてこい!」


 なるほど…“ぐぬぬ”の法則は「(ぐぬぬ)+(n−1)✕(ぬぬぬ)」との仮定が成立した。


 ギルマスに開放されて階下に降り立った俺ちゃん達を待ち受けていたのは見目麗しい受付嬢ではなく、むさ苦しいクランの勧誘員達であった。

 どうやら模擬戦をして実力を図り、それをそのままクランの採用試験にするらしい…あ!“ぐぬぬハンカチ”とか新しい商材にならないかな?


 何やら揉めてるが複数のクランからお越しの様だ、いちいち相手するのも面倒くさいので、こちらが二人で対複数でもいいですよ?と煽ったらクラン連合軍が結成されたっぽい、仮にクラン連合軍が勝利を収めたとしてどこのクランに割り当てるつもりなのだろう?


 距離をおいてギルドの検分役が「はじめ!」と号令をかけるも連合間で様子見してる有り様だ…「どこからでもどうぞ?」と腹を叩きながら煽ると、各クランの血気盛んな若手らしき者共が飛び掛かってくるけど難なく捌いて地を舐めさせる。

 パイセンとの組手の成果でもあるが少しばかり絡繰からくりがある。


 本来なら俺ちゃんの能力はユーゲンの“3オン3”に則り、一回K.O.されると二人目のニンジャに特性が変わり超必殺技ゲージがマックス4ゲージになり、更にK.O.されると三人目の古武術使いになりマックス5ゲージになる仕様だったのだそうだ。

 しかし途中でパイセンとザッキーを巻き込んだ“スクワッド”モードへの変更によりシステム…世界の法則への干渉が起こり超能力者の特性が固定されてしまったらしいのだ。

 浮いてしまったリソースを何時までも遊ばせていく訳にもいかないが潜在的な能力として保留していたところでパイセンとの人外レベルな修行で飛び道具的な使い方に特化していた念動力テレキネシスを身体に纏う使い方に開眼してしまったのである。

 更にニンジャと古武術使いの基本的な身体運用の基本情報がプリセットデータとして開放されたのである。

 本来ならば元々開放されていた筈のデータを累計1,000,000,000ポイント達成ボーナスに設定せざるを得なかった事をC.O.Mちゃんに謝られた事は記憶に新しい。

 それでも慣れ親しんだ超能力チートの使い方を変えるのは容易ではない。

 俺ちゃんは放出系なのかな?身に纏う念動力は今一つコスパが良くないのであるが、元々の能力であるバリアとの親和性で何とか実用レベルまでもってきているのである。


 それでも近接戦闘において拳や肘、膝などを念動力で覆い、攻撃する側のダメージを気にせずに振り抜けるのは大きい。

 何ならキチンと振り抜ければ念動力のブースト付きの打撃になるのだ、そこに古武術独特の体術による連撃が炸裂するとなると…ボロ雑巾製造マシーンの出来上がりである。




 

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