第57話 ノーザンパイア
盗賊は身ぐるみ剥いで森の中にナイナイしといた、きっと森の生命の循環に取り込まれる事だろう。
武器とか鎧とかは別々に土葬しといてあげた俺ちゃんは優しいね、念動力穴掘りとかいい訓練になりましたよっと。
そして地味子と“通り魔”ってこっちの世界だと魔物の一種で実在しそうじゃね?と言う
そしてとうとう帝国北部最大の都市ノーザンパイアに到着したのであった。
この辺りを治めるズニノール伯爵の居城があり、要衝となっている。
俺ちゃん達が辿って来た経路沿いに護衛していたインセクトが道々点在しているので中佐が持ち込んだインセクト群と繋がればスパイダーネットはドワ郷からノーザンパイアまで繋がる筈だ。
そんな事をボンヤリ考えてたら街の入口で衛兵に呼び止められた。
曰く盗賊討伐に出た騎士団が戻らずに行方不明だそうだ。
「騎士団どころか盗賊だって見かけちゃいませんよ?御覧の通りの二人旅なんで護衛を引き連れた商隊と違って目立ちもしませんし、それなりに気配を消して動けますんでね」
肩を竦めながらゾンジアゲマセーンのポーズで答えてあげる。
「冒険者の二人旅?随分と珍しいがどこのクランの者だ?」
随分と訝しげな衛兵さんだ。
「クランは未加入ですよ、ホラ冒険者カードのここも空欄でしょ?ノーザンパイアは大都市なんでいいクランが無いかなー?って、
冒険者カードを見せながら丁寧な説明を熟す俺ちゃん。
「フン!くだらん事を言ってないでさっさと進め!」
冒険者カードを押し付けられながらシッシと追いやられてしまった…多分カルシウム欠乏症かユーモア欠乏症なのだろう。
そんな事よりも地味子との会話を重ねるのが重要だ。
つい先程も道中襲ってきたのは盗賊でも無く山賊でも無くこの世界特有の魔物“通り魔”と言う結論に至ったのだ。
このまま他愛の無い会話を進めて内部パラメータを上げて週末デートフラグを建てるのが重要だ、この世界には女の子の好感度を教えてくれる親友などいないのだから…あ!C.O.Mさんがいたわ!
――――――――
ボッタクー商会北部統括支部長は多忙な毎日を過ごしていた。日に四時間にも及ぶ労働時間が最近は六時間…否、接待業務を勘案すると優に八時間を超える長時間労働により体の疲労が抜けなていないと自覚している。
ちなみに接待業務の半分は接待を受ける仕事としてカウントされている。
そもそもボッタクー商会とは一介の武器商人であった初代がダンジョンハントに勤しむ冒険者相手に武器を売り付ける事で商会を立ち上げたのだ。
当時はダンジョン景気で多少高くても冒険者相手なら面白い様に売れた、ましてや生命線であり消耗品である武器は尚更である。
他商会の介入が入る前に逸早く当時の王侯貴族に取り入り食い込んだ、供給を途切れしてしまう事でダンジョンのモンスターが溢れる危険性を盾にしてである。
冒険者ギルドの黎明期であり組織的な情報収集などに手が回らない様な時代に、冒険者達と直接取り引きを行い日々のダンジョン進捗具合を、他のどの組織よりも新鮮で纏まった形で仕入れられた事が優位性となり気づいてみれば支配者階級との間での既得利権として盤石の地位を築いていた。
時は流れ、帝国の軍事力を支える一端となる程の一大武器商会となっていたのである。
但し帝国特有の実力主義、その中でも質実剛健を旨とする軍部との取り引きが主である為、そうそう甘い汁を吸える立場でもなく大商会と言えども比較的質素な運営を余儀なくされていた。
それでも先々代までの覇権主義やらで大きく売り上げを伸ばし、そもそも規模の大きい国相手の仕事である、間違っても食いっぱぐれる事も無く舵取りを大きく間違えなければ左団扇の生活は約束されているのである。
一方で堅実な商売に慣れすぎていたのか、肥大した帝国の新領土に対する需要への取り組みに一歩遅れ、他の大商会に大きく水を開けられてしまったのである。
そうして焦りと欲の深い商人のサガが商会を更なる新天地を求め内陸である北部に大きく進出させたのである。
武器商人としては近隣の王国やドワーフ産の品質の高さに食い込めず、それではと他品目に目を向けると肥沃な大地と良好な農産物に目を付け販路を広げた。
麻や綿などの収穫も良好で帝国北部の衣類・食料品商会として成功した先代北部統括支部長は華々しく本部へ栄転していった。
成功者がいれば、その影に妬み嫉みありとは世の常で、後任には成功の為には手段を選ばない根性の派閥から捩じ込まれる事になった。
それが現北部統括支部長リーなのである。
先代支部長も質実剛健な武器商人として育ってきたが故、その商売は無駄を省き、取引の健全さと継続性に重きをおいていた為、リー支部長が着任する頃には他商会の進出も相まって、所謂甘い汁を吸えるネタなど残ってなかったのである。
だが派閥の上位者からの催促も止むわけもなく、後ろ暗い仕事を新規開拓、支部内の頭の固い連中に振るには情報漏洩に不安を覚え派閥内で密かに回していたのである。
そこに新たな取引先になりうる王国内での新興勢力との繋ぎが出来たとの朗報が入る、聞けば王国内重鎮のお墨付き組織と言うではないか。
様々な下準備を整えていよいよ取引開始となった段で突如テイキョー支店との連絡が途絶えたのである。
何をしてんのかと、手の者を現地に送っても送った者全てが行方をくらます始末だ、穴埋めに従来ルートで割り増し料金でブツを調達したりと非常に多忙な毎日を送っているのである。
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