第54話 中佐講談


 トム中佐によると別行動していたパイセンがボッタクー商会テイキョー支店幹部連中のを完了させたそうだ。

 護衛していたクランのトップ連中も纏めて説得したらしく定例会でも使ってるこの酒場に連行中との事だ。

 最近のパイセンは打撃にも凝り始めてトレモでのスパーリングもエグい事になっている。

 どうやったら独学で発勁とか浸透勁とか体得できるんですかw

「なんかこう、体重の乗せ方?インパクトを微妙にズラしてやると奥に届くみたいwww大丈夫、チートバーストみたいにデタラメな技じゃないからwww」草生やしながら格闘マンガの奥義的なモノを気楽に説明してくれたけどソレ、充分にデタラメだからな?

 付き合わされるこっちも近接戦闘のレベルがガン上がりですよ有難うございます。


 さて、連行中の連中が到着する前にこちらも片付けとかないとなー、とか思ってたら卍が意識を取り戻した。

 状況把握するまでボーッとしてたけども辺りを見回して俺ちゃんや地味子を視界に捉えると抜け落ちた表情で土下座して来た。

 残りの三人も意識を取り戻すと順次土下座に加わっていった。

 今からお偉いさん達が来るから会議室の準備をしろと命じたら敬礼して勢いよく駆け出してった。

 いやぁ、あんなに息をする様なチンピラムーブかましてた彼も変われば変わるモノてすなぁ…正に教育の賜物。

 言うなれば“女教師地味子シリーズ特別編〜課外授業は愛のムチ〜”…うん、これ以上はやめておこう、多分修正がきかなくなるw


 パイセンに連行されて来た連中も似たような怯えた目をしている。

 何があったのかな〜?題すれば“男教師の肉体言語〜愛という名の指導〜”…うわぁ、ヤメヤメ。

 連行されて来た連中は支店長とクランリーダーに各部門の責任者と言ったラインナップだ、半分くらいの人間は顔を腫らせている。

 程よく破壊されてる店内やヒビが入り抉れてる壁を見て何かを察したご様子だ。

 卍達が準備した会議室のテーブルに一堂が並んで座ったところで中佐がやってきた。

 ここから小芝居開始である。


「本部直轄監査室のトーマスだ、既に部下達の査察を受けた様だから紹介は割愛する」淡々と話を切り出す中佐。


「か、監査…ですか?」支部長が恐る恐る問い返す。


だ、テイキョータウン支店長。キミの直属の上司は北部統括支部長だが此度はその北部統括支部からの報告に不明瞭な点が多々あってね、本部では要調査と判断されたのだよ」視線で射抜きながら説明する中佐。


「あ、あのー、私共はその北部統括支部からの命令に従って粉骨砕身の努力を以て社命に殉ずると申しますか、愛社精神の現れである成果は逐一報告させて頂いている所存で御座いまして…」額を拭きながら囀る支店長。


「ふむ、それでは現状をどう捉えているのかね?多数の行方不明になっている実行部隊と処理班、紛失した特別商品、今後の主力商品と見込まれてた特定植物の隠し農園も謎の大量枯死から回復の見込みも無い。何かしらの対応策などあるのかね?」


「そ、それは!報告した北部統括支部からの回答通りに従来業務に一意専心して補填金の捻出と代替商品の掘り起こしや新規従業員の募集等で補う方針で」なんとか無い袖を一生懸命振ってる努力をアピールするが中佐に遮られる。


「つまり、具体的な対応策は皆無。と言うことだね」


「ぐ、そ、それは…」


「そしてそれに対して北部統括支部からも何の支援も無い、そういう事だね?」


「は、ハイ!私共は奮戦の限りを尽くしてますが孤立無援の劣勢を余儀なくされて」


「よもや全力で頑張って穴埋めします、とか報告してないだろうね?」


「は!?いや…その件に関しましては…」言葉が続かなくなる支店長に中佐は諭す。


「いいかね、支店長?上から言われた事に疑問を挟まず「頑張ります」と言うのは仕事手順を覚えてる小僧までの台詞なのだよ、真面目にやってもらうのは当然だが頑張りってのは空回りしたら小銭一枚にもならないのだよ。かいた汗が金になると言うのなら君がかいた汗を瓶詰めにして商品棚に並べてみればいい。汗をかく事が目的ではなく「真面目にやったら汗をかいてた」が正解なのだよ、それを間違えてはならない。こと今回に関してみれば上からの指示に従って大怪我をした、何か指示とは違う事でもして失敗した訳ではなかろう?それなら失敗した報告と並行して要因の分析を早急に行い、今以上に傷口を広げない努力をするのがキミの役割なのだよ」


 どこかの土産の人形みたいにカクカクと頷く支店長に更に中佐の訓示は続く。


「社の方針や考え方に沿った儲け方をするのが商会だ。それを念頭に置いて任された地域や部署で照らし合わせてみて需要と供給のバランスから利益を上げられるかどうかを判断するのが支店長は勿論、出張所や駐在と言った出先の長の仕事であり存在意義なのだよ。いいかね支店長?少なくとも非常にマズい状況だと言う報告を行ったのは我々監査室は把握している、同時に具体性の無い努力で補おうと空手形を切った事もね。確かキミの教育係だったのは今の北部統括支部長だったね?我々は北部統括支部にこそメスを入れるべきだと考えている。キミの処遇は本来降格の上、管理職としての再教育が必要なものだが、教育担当者の指導不備や現状の緊急性を勘案すれば当座は支店長不在としてキミに支店長代理補佐見習いとして取り回して貰いたい、時期を見て再教育期間を設定するから甘んじて受け入れて欲しい。何か異存はあるかね?」


 支店長カクカク人形…もしかしたらカクカクシカジカの語源ってコレなんじゃね?


「では支店長代理補佐見習いの最初の仕事として支店内の業務マニュアルを纏め給え、まず欲しいのは支店長としての日常業務と突発的案件でマニュアルに落とし込める程度には頻発する事案への対応方法だ。支店内の実務に関してのマニュアルだが…これは把握はしているとは思うが現場判断で回ってる事もあるだろう、作成を部下に振ってよしとするが通常業務時間内にやらせてくれるなよ?片手間に作られたマニュアルなんぞ良くて単純作業の手順書止まりだ、マニュアル作成の為の時間を設け給え。部下の時間を捻出するのは上司の仕事だ、頼んだよ?」


 支店長カクカクしてんよ。


「今後の業務に関しては、この半期に出された特別業務は利益創出見込み薄として当分凍結する。衣料と食料に関しては従来通りに注力して欲しい、金融に関しては本部より格付け評価が見直される動きがあるので可能な限り縮小方向で…我々は北部統括支部の監査に向かうので具体的には本部発行の指示書に従って貰う。クラン関係はダンジョン、周辺巡回、護衛業務に精を出して何より己の研鑽に注力して欲しい」


 何かを言いかけるクランリーダーを無視して中佐の指示は続く。


「今回の件で王国から仕入れた商材が軒並み所在不明になっているのは理解してくれてると思う。これが何を意味しているかは少し考えれば分かってくれると思うが…クランリーダー、何かあるのかね?」ゆっくりとクランリーダーを睨めつける中佐。


「…まさかプレイヤー達が!?」


「多くは語らないがね、今までがそうだったからと連中が国境を超えてこない保証は何一つない。彼等の得意とする業務はキミ達と同じくするところが多いのは確かだがキミ達には今までの信用と言うものがある。期待しているよ?」





 嗚呼、中佐一人舞台の巻でありました。





 

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