第53話 ボールは友達


 〈確かにファーストインプレッションのチンピラ色を強く残したい気持ちも分かる、だけどこんだけマジでマジべー主張してるんだよ?汲んであげなきゃって思わない?〉


 包囲網を狭めてきた三人の背後にテレポートで回り込み適当にサエキグレネードをバラ撒く。


 〈だからと言って卍兵衛マジべーは本人に通告したら晒し上げ過ぎて居た堪れなくならないですか?〉


 チンピラ君(仮称)を壁際に蹴り飛ばしながら反論する地味子。


 〈うーん、本人が認識してなかったとしても、ソレは個性だからねぇ…自らの言動が周りにどの様に受け入れられてるかってのを教えてやるのも優しさじゃないかね?〉


 サエキリフレクターで一人を吹き飛ばし、残りの二人を纏めてジャンプしながらサエキグレネードをポイポイ放り込む。

 初級テクと言ったら響きが良いのかも知れないが、2D時代ではジャンプの登りと降りでグレネードをバラ撒き足元と頭上で弾ける攻撃は対処法を知らない初心者にとってはハメ技に感じられる攻めである。

 当然、対処法は存在していて、着地に相打ちを狙えると言うのを知ってる上級者には通じない所謂“舐めプ”である。

 まぁ、宙に浮ける今となっては本気になれば只の空爆になりかねない連係ではある。


 〈それもそうかも知れませんね…いつまでも公園でマント翻してる子供じゃ居られないですものね〉

 

 酒場の壁にマジべー(仮称)を押し付け適当な壁コンで貼り付けながら痛烈なコメントを下す地味子。


 〈HAHAHA!中々痛烈だねw〉


 とっくに体力ゲージが消失してる死体蹴り(生きてはいる)に見切りを付けて勝利ポーズを決める。


 〈画面端と違って壁は脆くてコンボが途切れますね〉


 容赦の無い連撃を入れながらも若干不満気な地味子。


 〈あー、いー感じに補正切りでダメージが伸びてるとゆーか既に体力ゲージの数倍はダメージ入ってるっぽいから許してあげなよ〉


 見た事あるかい?リアルボロ雑巾ってヤツを、リアルで格ゲーコンボを完走すると洒落にならないのがよく分かるんだぜ?w


 〈失礼しました、トレモとの感触が余りにも違ったもので…〉


 そーだよなー、仮想敵のレベルが違いすぎると瞬間で体力ゲージ溶けるもんなー。

 そもそも地味子は地上コンボも空中コンボも対空も一通り地味に何でも出来るキャラだった。

 特にダメージ効率が良い訳ではなく、例えばコンボの締めに放つ超必殺技はヒット数が安定せずにフルヒットしないで相手を吹き飛ばしてしまう性能をしていた。

 その分相手をコンボで画面端に追いやる…所謂“運び”が強いキャラで、運んだ画面端で起き攻めからの連係が醍醐味であった。

 地味子の格闘スタイルは全身に薄青いオーラを纏い蹴りを主体に攻め込んでくるものだ、必殺技で代表的なものは何と言っても突進系飛び膝蹴り“ニーボンバー”だ。

 この技は特殊操作で出掛かりキャンセルが可能で攻撃判定を残したまま次の行動が出来るのだが、キャンセル前ステップから更にニーボンバーを入力出来る。

 タイミングが非常にシビアだが繰り返すと永パになるのである。

 極めたプレイヤーによる「ニーボッ!ニーボッ!ニーボッ!」は悪夢以外の何物でも無いだろう。

 格ゲー界で“ドリブル”と言うと地面にバウンドした相手に追撃を入れてバスケットボールの如くバウンドさせ続ける連撃の総称とされているが、蹴り飛ばしながら運び続けるサッカーの如き“ドリブル”は当時は新しい風だと一定の評価を受けていた。

 これがユーゲンで3D格闘ゲームにコンバートされると前後左右の自在なステップによるキャンセルで“マジでドリブルだは…”と、そのテの界隈を賑わかせた。


 ボールは友達…そんな言葉を意識を失った卍(仮称)の顔を眺めながら思いつく…ん?新しいプレイとして商売になるのか?卍(敬称)に後で風俗的インプレッションを聞き出さないといけないのか?

 そんな海の如く深い考察をしている最中に念話が届く。



 

 〈ザザッ、こちらはトム中佐だ。応答願う〉




 念話で“ザザッ”って言うのが流行ってるらしい。

  




 

 

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