第52話 憧れの冒険者?


 そんなワケで、帝国には冒険者ギルドが存在するのである。

 が、テイキョータウンの冒険者ギルドは商業ギルドの影響力が非常に強く所謂“お行儀の良い”組織となっている。

 そりゃぁ商人ですもの、最優先とは言わなくてもイメージとか評判はそれなりに気にしますよ。

 ガラの悪い連中抱えた組織を後援してますとか噂されると困るから…分かってるよねギルドマスター君?とゆーやり取りがあるのは想像に難くない。

 もっと言えば有力な冒険者達は後援してる商業ギルド内の派閥に取り込まれていて夫々がクランとして登録されている。

 各クランの溜まり場みたいな場所がダウンタウンに点在してて、ガラの悪いメンバーはそちらに収容されている様だ。

 閑散とした冒険者ギルドでは各派閥の連絡要員と思しき連中が暇そうにしている。

 張り付いた笑顔の受付嬢はマニュアルに忠実な説明とクラン紹介をシームレスに熟した後にどこのクランにも入る気は無い旨を伝えられると信じられないモノを見る目でお見送りされた。

 なんでも某クランは最近テイキョータウンでの活動に特に注力していて大々的に人員募集しているんだとか。


 クランの説明宣伝が三周目に入ったところで話を切り上げて所定の書類を提出して金属製のプレートを貰ったら晴れてF級冒険者デビューだぜ!…だがしかしテンションはそれ程上がらない。

 異世界あるあるのFラン冒険者の定番“薬草摘み”はそもそも存在しない。

 正確には薬草栽培農家が存在してて商人ギルドが牛耳る肥料業者にて原材料の一部に魔力を注ぎ込むバイトは存在している。

 そりゃそーだよなー、常に一定量の需要のあるポーションの材料である薬草を野生の自生にのみ頼るとか無いわなー。

 じゃあゴブリンとか雑魚モンスター討伐とかの仕事がありますか?と言えば各クランが持ち回りで街道や街周辺の巡回業務を持ち回りだったり縄張りだったりがあって寡占状態だ。

 そりゃー冒険者ギルドが閑散となりますよ。

 とどの詰まりテイキョータウンでの冒険者ライフはクラン加入して初めてチュートリアルが始まる仕様なのである。

 適当な身分証が欲しかっただけの俺ちゃんと地味子はチュートリアルを華麗にスルーして冒険者ギルドを後にする。


 〈マスター、尾行されてます〉


 〈みたいだねー、どこかの勧誘かな?〉


 〈…検索してみましたが、どうやらボッタクー商会が後援してるクランメンバーの様です〉


 〈ふーん、話だけでも聞いてみるか?〉


 ダウンタウンに誘導したら案の定、身なりだけ辛うじて整えててみましたな感じのチンピラ君が話しかけてきた。

 立ち話も何だからと1杯奢らせる約束で馴染みの酒場とやらに案内させる。

 案内された酒場は、時間も中途半端な事もあり随分と閑散とした有り様だ。


「でよー、ウチは今ヤバいくらいデカいヤマを抱えてて大々的に人集めしてるワケなのよ。ワカる?ヤバデカいヤマって事はヤバデカく儲けるチャンスなのよ。ヤバヤバじゃね?こんなにヤバ美味しい話なんてそうそう無いからよー、アンタらもウチ来なよ。マジヤベーから、略してマジべーだぜ?」チンピラ君の言語能力がマジべーなのがよく分かる勧誘文句である。


「でもさー、マジべーなくらい忙しいのに何でこんなに人がいないん?察するに、ここって事務所兼ねてるんでしょ?いくらなんでも詰めてる人数こんだけで残りが総出なんて事もそうそう無い話よね?」人も疎らな店内を見回しついでに静か過ぎて店の奥にも人の気配がしてない雰囲気に肩を竦めてみる。


「それがマジべーでよー、よく分かんねーんだけどよ?俺のアニキのグループがメインで仕切ってたんだけど、なんか怪我だか病気だかで手が足りねーつって俺等みたいな下…中堅グループにまで指示が出てるのよ、マジべーだろ?俺の見込みだとアレだ、景気付けに飲んだ時に生モノか何かに当たったんじゃね?冴えわたる俺の名推理、マジべーっしょ?」自称中堅の下っ端スタッフの様だ。


「へー、んで兄さんは何担当なの?」


「マジべーだぜ?アニキがやってた物資調達と新人発掘だぜ?アニキがやってたより多く仕事振られるなんざ、マジべーっしょ」物資調達ね…何を調達してたのやら。


「へー、怪我や病気とは災難だねー。そっちの調査とかはしてないの?」口軽そーだし聞くだけ聞いてみるか。


「あー、何か本部?違うな、支部?そこからの催促が鬼マジべーらしくてソレどころじゃないんだってよ。デカいヤマだからキチンと脳筋?納期?に商品を納めないとマジべーなんだってよ、マジべーだろ?」その納める商品は軒並み接収されて処分済なんだけどなー。


「そんなに忙しいなら俺達は無理だなー、そこそこ急ぎの旅なのよ」得るものはやはり無し、か。


「旅?確かに見かけない顔だけど、どこの出なのよ?」徐ろに剣呑な目つきで問い質してくる。


「俺達は王国でさー、最終的には帝都まで流れる予定なのよ」あー、少ない人数で出口固めだしたなー。


「そっかー、そりゃマジべーだわ。実は俺の担当してる物資調達には奴隷の項目もあるのよ。残念だけどアンタらは今からウチの商品だ」抜いたナイフをテーブルに突き刺しクンロクを垂れてらっしゃる。


 出口を固めてた連中もジリジリと包囲網を狭めて来ている。


 そんな最中さなか、俺ちゃんは地味子と念話で真剣に議論していた。





 

 コイツの名前は“馬路出 卍兵衛まじで まじべえ”か“チンピラーノ=マジべー”のどちらが相応しいかと。




 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る