第51話 ヒロインの定義


 正直に言おう、俺ちゃんは浮かれている。

 帝国編ではマイスイートハニー地味子が連れ添ってくれるのである。

 サポートAIであるC.O.Mの分体ではあるが、義体を得たAIとは独自の個性を持つのだそうだ。

 俺ちゃんの脳に魔術的に憑依しているC.O.Mとリンク圏内にいる限り情報の同期は取っているが既に個別の思考ルーチンで動いてるそうだ。

 “魂は肉体に、肉体は魂に影響を受ける”あるいは“魂は肉体に引きずられる”とも表現される現象だ。

 更にC.O.Mゴーストは囁く…


『あのコ、マスターに気がありますよ?』


 うひょー!体温が上がる特ダネトピックですよ?そりゃショーワな叫びシャウトの一つもしますってばよ。

 地味子を創造せし開発者よ、フレイバーテキストに“齢の頃なら二十代後半、そろそろ恋人が欲しいと考えている”の一文を書き込んでくださった奇跡に感謝の祈りを捧げます。

 この世界での出自的に俺ちゃんからサルベージされたデータで構成されてる訳だから俺ちゃんのサポートに回るのは、ある意味必然だったと言えるだろう。

 サポート対象に生ずるであろう事象に関するシミュレーションはAIが高性能であればある程、四六時中演算される…つまり“寝ても覚めても貴方の事を考えてます”状態になるのだ。

 そしてサポート対象である俺ちゃんは技術至上主義テックイズムの信者であり更にAI人格肯定派…八百万の神おわす国で育ったのだ、付喪神と同様にAIに魂が宿らぬ方が嘘くさいと考えるのは当然の事だ。

 そんな感じで道具として接するのではなく人格として接する事で好感度ゲージが溜まったのであろう。

 正直に言おう、ぶっちゃけ下心はあった。

 そりゃそうだろ?理想のルックス、理解ある性格、俺ちゃんファーストな思考と立ち振舞…普通に大切にしてまうやん。

 別に処女厨ってわけでもないが、地味子と中佐に関して設計図と主要諸元スペックこそアーカイブで情報共有されているが作成過程においてはM.O.M単独で完結しており、その気遣いには頭が下がる思いである。


 さて、浮かれ気分でロケンローなハートを少し落ち着かせて少し冷静になろう。

 いや、こちらの話題も浮かれる要因なのだが帝国には冒険者ギルドがある。

 そう!お待たせしましたレディースエンジェントルメン!テンプレ異世界転生がいよいよ呼吸します!

 “胎動編”って章の名前を書き換えちゃおうかな?


 …そんなふうに考えていた時期が俺にもありました。

 あー説明するよりも、以下記憶を掘り起こしたモノローグ風でお届けします。




 帝国側の国境を守る街、テイキョータウンには都市の治安を守る衛兵の他にも社会的に防衛機能として領主直属の近衛兵の他に冒険者ギルドが存在している。

 モンスターが闊歩する世界である、本来なら各都市に常備軍を配置して人類の生存圏を確保するのが自然であろう。

 だが膨らんだ帝国の国境線の向こう側、王国関所の番人たるエーレヒト侯爵領は近衛兵と衛兵以外の兵力は持ち合わせていなかった。

 そう、歴史を紐解けば未開拓の土地を挟んで国交を結んだ頃には既に王国内には対モンスター、対ダンジョンのスペシャリスト…プレイヤーと言う存在がいたのだ。

 国境線を接する片方が相対して大規模な常備軍を有する…誰がどう見ても侵略の意図しか汲めないだろう。

 例えそれが対外的な武力ではなく対環境的なものだとしてもだ。

 ましてや帝国側の最前線に立たされた領主は、急進的に拡大して半島を併呑した帝国内で内陸に領地を追いやられた一族なのである、押し出されるように開拓を余儀なくされてようやく手強いモンスターもどうにか一掃の目処が立ち、態勢を整えて初めて旨みを享受できるダンジョンも領内で目星が付き始めた矢先に王国と陣取りゲームなど興じれるものか。

 幸いだったのは王国側の国境線を治める領主が攻撃的で無かった事だろう。

 隣国の融和路線に乗っかり、プレイヤー程ではなくとも欲と需要に素直な冒険者と言う人種の発掘と育成は、利権に目をつけた商業ギルドの後押しで思いの外スムーズに軌道に乗った。

 今思えば、何故に王国のプレイヤーを取り込まなかったのか首を傾げるばかりであるが、当時はプレイヤーは不可侵であるとの認識が誰の思考の根底に根付いていたのだ。

 そんな背景の中で、王国のプレイヤー、帝国の冒険者と言う色分けがなされていたのである。





 

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